最新記事
考古学

地中海で「新石器時代の遺物」の歴史的発見か!?黒曜石の塊が見つかる

Navigating the Neolithic

2024年1月22日(月)12時10分
アリストス・ジョージャウ

240123p52_KDI_03.jpg

難破船の積み荷か、それとも海底に沈んだ集落で使われていた道具か SUPERINTENDENCY OF THE METROPOLITAN AREA OF NAPLES

「先史時代、黒曜石は貴重品だった。鋭い刃を得ることができ、しかも長持ちしたからだ。まだ金属を使う技術のなかった時代、切削工具の材料として最も重宝されていたのが黒曜石で、その価値はとてつもなく高かったはずだ」とバルッチは言う。

黒曜石はどこの火山でも採れるわけではなく、その供給量は限られていた。

しかしバルッチによれば、黒曜石の原石は新石器時代を通じて、地中海の海上交易により、あちこちへ運ばれていたらしい。

現に沿岸部の数々の遺跡で発掘されている。

難破船か水没集落か

1万年以上前から広く取引されてきた黒曜石だが、キングズリーによれば、その石核が海底で見つかることは「めったにない」。

クレタ大学(ギリシャ)の考古学者で先史時代を専門とするネナ・ガラニドウ教授も本誌に、新石器時代の難破船の積み荷から黒曜石の石核が見つかった例は、少なくとも自分の知る限りではないと語った。

それでもカプリ島沖で、1つではなく複数の加工品が見つかったとなれば、その黒曜石が舟の積み荷だった可能性は高まるのではないか。

しかし、とキングズリーは言う。

「これらの石核には『細工』の痕がある。だとすると、海底に沈んだ先史時代の集落で使われていたものと考えるほうが妥当ではないか。削った痕は、山で火山ガラスを切り出すときに付いたものか? それとも(ナイフなどの)道具を作るために使われた証拠なのか? 後者だとすれば、未知の水没集落に由来する可能性が高いと思う。(船荷であれば)客は新品を好むはずだ。使い古しの中古品よりもね!」

ナポリ大都市圏を担当するSABAPのマリアーノ・ヌッツォによれば、今後は「白の洞窟」周辺の海底を徹底的に調査して、船体などの残骸の有無を調べることになる。今回の発見現場で、さらなる遺物の回収に挑む計画もある。

実現すれば、この黒曜石の加工品がどこから来て、なぜ海底に沈んだのかという謎の解明に近づけることだろう。

ニューズウィーク日本版 Newsweek Exclusive 昭和100年
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年8月12日/19日号(8月5日発売)は「Newsweek Exclusive 昭和100年」特集。現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

「ビッグ・ショート」投資家バリー氏、第2四半期は強

ビジネス

米バークシャー、ユナイテッドヘルス株取得 アップル

ワールド

米国による追加制裁や関税引き上げを警告=ブラジル前

ビジネス

「コーチ」親会社、関税の影響で利益見通し予想届かず
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化してしまった女性「衝撃の写真」にSNS爆笑「伝説級の事故」
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 5
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 7
    「デカすぎる」「手のひらの半分以上...」新居で妊婦…
  • 8
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 9
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 10
    「ホラー映画かと...」父親のアレを顔に塗って寝てし…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 3
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何か?...「うつ病」との関係から予防策まで
  • 4
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 5
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 6
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 7
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中