最新記事
感染症

「歩く肺炎」の恐怖、耐性菌大国に忍び寄る子供たちのマイコプラズマ肺炎危機

Another Deadly Outbreak?

2023年12月4日(月)20時28分
アニー・スパロウ(米マウント・サイナイ医科大学助教)

マイコプラズマ肺炎は学齢期の子供が市中感染する最も一般的なタイプの肺炎だが、比較的症状が軽く、入院治療が必要でないことが多いため、筆者ら小児科医の間では「歩く肺炎」と呼ばれている。

むしろRSウイルスやインフルエンザウイルスやライノウイルス(いわゆる一般的な風邪のウイルス)のほうが、肺に重い炎症を引き起こす危険性があり、乳幼児の救急外来や入院、死亡の原因となる可能性がずっと高い。

では、なぜ今、これまでとは異なるマイコプラズマ肺炎の流行が起きているのか。

確かに、今回の大流行の理由の1つは、コロナ禍の「免疫負債」かもしれない。ここ数年、世界各地でロックダウン(都市封鎖)などの防疫措置が取られてきた結果、子供たちはマイコプラズマ肺炎菌を含む病原体にさらされる機会が乏しく、十分な免疫が付いていないという説だ。

今回の中国におけるマイコプラズマ肺炎の感染拡大は初夏に始まった。それがみるみる加速して、10月初めの国慶節の大型連休明けには、国家衛生健康委員会がマイコプラズマ肺炎を監視対象に加える異例の措置を取るに至った。

同時に2つの感染症にかかると、1つだけの場合より症状が悪化することがある。ただ、子供によくある重複感染(RSウイルスとインフルエンザ)が肺炎を急増させることは、これまではなかった。だが、今年はこの組み合わせに新型コロナが加わった。

新型コロナという変数

新型コロナとマイコプラズマ肺炎に重複感染すると、特に症状が悪化する恐れがある。2020年の研究では、新型コロナで入院した成人が、同時に、あるいは短期間にマイコプラズマ肺炎に重複感染すると、致死率が大幅に高まることが報告されている。

乳幼児は免疫学的にマイコプラズマ肺炎にかかりやすい。

しかも新型コロナやインフルエンザとは異なり、マイコプラズマ肺炎にはワクチンがない。

つまりマイコプラズマ肺炎で死亡した子供がゼロとは考えにくいのに、中国は死亡数や肺外合併症といったデータを公表していない。

何より気掛かりなのは、そして中国政府が触れようとしない事実は、中国ではマイコプラズマ肺炎菌が、マクロライド系抗菌薬(8歳未満の子供に安全に使用できる唯一の抗菌薬だ)に耐性を持つ型に変異していることだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国製品への80%関税は「正しい」、市場開放すべき

ワールド

ロシアで対独戦勝記念式典、プーチン氏は連合国の貢献

ワールド

韓国地裁、保守系候補一本化に向けた党大会の開催認め

ビジネス

米労働市場は安定、最大雇用に近い=クーグラーFRB
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 6
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 7
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 8
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 9
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 10
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中