最新記事
動物

メスと交尾するためならその子供を食べてしまう...... オスのツキノワグマに装着したカメラがとらえた衝撃映像

2023年11月4日(土)19時30分
小池 伸介(ツキノワグマ研究者) *PRESIDENT Onlineからの転載

クマが登山道を使って移動することが初めてわかった

回収できたカメラの中には、未知の光景を撮影していたものもあった。初期のころのカメラで撮った動画は、今見るととても粗いのだが、移動するのに登山道を使い、山小屋や標識の横を通っていることなどが初めてわかった。

また、これまで木の幹についた爪痕やクマ棚から、クマが木に登ることはわかっていたが、実際にその様子も映像で確認できた。あのずんぐりむっくりした体形からは想像がつかないくらい、ヒョイヒョイヒョイッと軽やかに登るのである。

食べることすら忘れてメスを見張るオス

2018年ごろからはハイビジョンカメラ付きの首輪も登場し、足尾や奥多摩のクマに装着して繁殖行動を観察することになった。

普段はオスもメスも単独行動をするのだが、繁殖期になると10〜20m先にメスの姿が見えるようになり、距離がだんだん近付いてきて、そのうちメスのすぐそばにオスが寄り添うようになる。

そしてメスが木の上でリラックスして木の実を食べているのを、オスは木の下で何も食べずに待っている。メスに逃げられないように食べ終わるまで見張っているのだ。

つまり、オスは食べることすら忘れてメスと一緒にいることを優先している。食欲よりも性欲が勝っているのである。

以前から繁殖期の6〜7月にクマを捕獲すると、オスが傷だらけだったり、ガリガリに痩せていたりするのには気づいていた。メスをめぐってのオス同士の戦いが熾烈しれつなのだろうし、きっと寝食を忘れてメスを追いかけていたのだろうとは思っていた。

カメラのおかげでそれがはっきりとわかったのは大きな収穫だった。

オスが子グマを食べている衝撃的な映像も撮れた

小池伸介『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら ツキノワグマ研究者のウンコ採集フン闘記』ほかにもカメラは衝撃的な映像をとらえていた。共食いである。オスに装着されたカメラがメスを映し出したあと、子グマがオスによって食べられているさまが映し出されていたのだ。

これは、子連れの母グマと交尾するため、オスが子グマを殺しているのだ。メスが子グマを生むのは1月か2月の冬眠中で、5月の上旬の冬眠穴から出てくる時期になると子グマは2〜3kgにまで成長する。そして8〜9月ごろまではメスは授乳をしているのだが、6〜7月の繁殖期にオスに遭遇すると、オスはメスと交尾をしたいがために子グマを殺し、メスの発情を促すことがあるのだ。

海外では0歳の子グマの死亡は8割から9割が繁殖期に発生し、その多くがオスによる子殺しだろうと推定されている。

小池伸介(こいけ・しんすけ)

ツキノワグマ研究者
1979年、名古屋市生まれ。東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院教授。博士(農学)。専門は生態学。主な研究対象は、森林生態系における植物―動物間の生物間相互作用、ツキノワグマの生物学など。現在は、東京都奥多摩、栃木県、群馬県の足尾・日光山地においてツキノワグマの生態や森林での生き物同士の関係を研究している。著書に『クマが樹に登ると』(東海大学出版部)、『わたしのクマ研究』(さ・え・ら書房)、『ツキノワグマのすべて』(共著・文一総合出版)など。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




ニューズウィーク日本版 AIの6原則
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月22日号(7月15日発売)は「AIの6原則」特集。加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」/仕事・学習で最適化する6つのルールとは


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、州に有権者データと投票機器へのアクセ

ビジネス

財政政策が日本国債格付けのリスク、参院選後の緩和懸

ワールド

インドネシア中銀、0.25%利下げ 米との関税合意

ビジネス

アングル:円安への備え進むオプション市場、円買い介
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 7
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 8
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 9
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 10
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 4
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 8
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 9
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 10
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中