最新記事
中国半導体

ファーウェイの新型スマホ「Mate60プロ」に米制裁対象のはずの先端半導体が使われていた。国産化に成功したのか?

Has China's Huawei Beaten US Chip Controls?

2023年10月5日(木)19時42分
アーディル・ブラール(中国ニュース専門ライター)

中国で大人気のファーウェイの新型スマホ「Mate60プロ」を試す客(北京のファーウェイ旗艦店、9月25日) REUTERS/Florence Lo

<「iPhone15より使える!」との声もある5G対応スマホを市場投入。アメリカの制裁下で、どうやってその半導体技術を手に入れたのか、懸念が広がっている>

【動画】空から垂直に堕ちた中国旅客機

中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)が今夏、新たな主力製品として発売した5G通信対応の最新型スマートフォンをめぐり、米政界では警戒の声が高まっている。ファーウェイにプロセッサを提供したのは米政府の制裁対象となっている中国の半導体大手・中芯国際集成電路製造(SMIC)。同社が高性能の半導体開発に成功したのなら、中国への先端技術の流出を防ぐために米政府が課した輸出規制の効果が疑問視されるからだ。

中国の国営メディアは、ファーウェイの新型スマホ「Mate60プロ」には回路幅7ナノメートルのプロセッサが搭載されていると発表、技術覇権をめぐるアメリカとの戦いで、わが国は偉大な飛躍を成し遂げたと喧伝している。アメリカでも広く購読されている中国国営の英字紙チャイナ・デイリーは、Mate60プロに搭載されているSMICのプロセッサ「麒麟(Kirin)9000S」を「驚くべきブレイクスルー」と絶賛した。

しかし中国国外ではそこまでの熱狂はない。テック業界の専門家に言わせれば、SMICの最新の半導体は、技術の壁を突破するという意味の「ブレイクスルー」というより、抜け出すというニュアンスを持つ「ブレイクアウト」と呼ぶに相応しい。このチップを広く普及させるためには、それ以外の一連の技術的な課題をクリアしなければならないからだ。

こっそりアメリカ製の装置を使っている?

「半導体のリソグラフィ技術では中国はまだまだ後れを取っている」と、中国電子専用装置工業協会のLi Jinxiang事務局次長は、8月にあるフォーラムで述べた。リソグラフィとは、半導体に複雑な回路パターンを転写する技術のこと。集積度が極めて高い半導体生産の鍵を握る技術で、転写には特殊な露光装置が使われる。

「中国の半導体生産ラインでは、国産の露光装置は全く使用されていない」と、Liは嘆いた。「こうした装置はおおむね研究機関で使われているだけだ」

米政府は1年前に中国企業に対し、先端半導体の生産に必要な装置の入手を制限する措置を課したが、今後さらに厳しい規制をかけると中国政府に警告したと、ロイターが伝えている。

だが大人気を呼ぶファーウェイの新型スマホにSMICのチップが搭載されていることから、中国がアメリカの規制を巧妙にかいくぐっているのではないかと、米政界の一部は懸念している。米下院の中国共産党特別委員会を率いる共和党のマイク・ギャラガー下院議員(ウィスコンシン州選出)は9月、米商務省に対しファーウェイとSMIC向けの「技術輸出の全面禁止」を求めた。

米議会の有力議員らは、SMICが「アメリカの制裁を破り、アメリカ製の装置を使ってファーウェイのためにチップを生産している可能性がある」とみており、ファーウェイとSMICにはさらなる制限が課されるだろうと、『半導体戦争』(邦訳・ダイヤモンド社)の著者で、タフツ大学フレッチャー法律外交大学院の准教授であるクリス・ミラーは本誌に語った。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

情報BOX:パウエル米FRB議長の会見要旨

ビジネス

FRB、5会合連続で金利据え置き 副議長ら2人が利

ワールド

銅に50%関税、トランプ氏が署名 8月1日発効

ワールド

トランプ氏、ブラジルに40%追加関税 合計50%に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 4
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 5
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 9
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中