最新記事
プロパガンダ

プーチンの最強兵器「プロパガンダ」が機能不全に...ちぐはぐな報道、ロシアではびこる原因とは

PROPAGANDA BREAKDOWN

2023年9月7日(木)12時30分
イザベル・バンブルーゲン(本誌記者)、エフゲニー・ククリチェフ(本誌シニアエディター)

230912P48_RPD_04.jpg

激戦地バフムートで発射されるウクライナのロケット砲 DIEGO HERRERA CARCEDOーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

バフムート陥落に難癖を

一方、ロンドン在住の政治学者マーク・ガレオッティは違う見方をしている。許容範囲内なら反対意見の表明を許し、多様な見解があるように見せかけるのはプーチン政権の常套手段だというのだ。「部下たちが全員、自分に忠実なら、部下たち同士が争うのは結構なことだというのが、プーチンの流儀だ」と、ガレオッティは言う。

プーチンの長年の腹心だったプリゴジンは、反乱に至る何カ月かの間、プーチンが始めた戦争を最も声高に批判していた。ついにはメッセージアプリのテレグラムで戦争は偽りの口実で開始され、ロシア政府の高官たちは腐敗し無能だとまで断じた。ロシア、ウクライナ双方の民間人が殺され、「何も知らないおじいちゃん」(プーチンを指すらしい)は蚊帳の外に置かれている、というのだ。

6月24日、プリゴジンはワグネルの戦闘員たちと共に首都モスクワを目指した。あっけなく終わったこの反乱で、ワグネルはロシア南部の2つの軍事拠点を掌握し、首都まで200キロ圏内まで迫ったが、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領の仲介で矛を収め撤収した。

この一連の不可解な動きに対し、ロシアの国営メディアの混乱ぶりは目に余るほどだった。「プリゴジンとワグネルは国家の英雄であり、成果を上げていた。だが突然この珍事が勃発し、彼らは首都に進軍する裏切り者となった」と、ロシアのプロパガンダ機関に詳しい米シンクタンク・ランド研究所の研究員クリストファー・ポールは言う。「虚偽にまみれた公式報道もこの事態をどう扱えばいいのか途方に暮れたようだ」

反乱とその影響についての報道で、プーチンの政治宣伝マシン内部の足並みの乱れや方向性の欠如が露呈した。一部の国営メディアは手のひらを返したようにプリゴジンを酷評。バフムートの重要性に難癖をつけ、この都市の掌握になぜ200日余りもかかったのかと疑問を呈した。

5月に国営テレビはこぞってバフムート陥落の「歴史的な意義」を強調していたが、政府系の第1チャンネルは6月30日、バフムートは「最前線の最も重要な都市ではない」と報じ、ロシアの正規軍は昨年ウクライナ東部のマリウポリをはるかに短期間で陥落させたと付け加えた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

12月利下げは不要、今週の利下げも不要だった=米ダ

ビジネス

利下げでFRB信認揺らぐ恐れ、インフレリスク残存=

ワールド

イスラエル軍がガザで攻撃継続、3人死亡 停戦の脆弱

ビジネス

アマゾン株12%高、クラウド部門好調 AI競争で存
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 9
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中