最新記事
中国経済

景気回復は期待外れで不動産危機も...追い詰められた「中国経済」、なのに景気刺激策にも出られない訳

Economic Stalemate

2023年8月30日(水)18時06分
ダン・マックリン(中国政治アナリスト)

しかし、そこにはもっと根本的な理由があるのではないか。最近の経済指標は、指導部にとって受け入れやすいというだけでなく、長期的な政治的利益に合致しているのだ。仮に中国経済が資本主義のメカニズムによって高成長に戻れば、「共産主義」を名乗る党の存在意義はますます疑わしくなるだろう。

中国の政治エリートは、「中所得国の罠」にはまることを懸念するより、国内の上位中流階級がますます拡大することに脅威を感じているようだ。個人や企業の富の創造に上限を設けることは、そうしなければ存在意義を失いかねない党の支配力を拡大する手段でもある。経済の拡大をせき止めることは、中国の政治経済システムの特徴であってバグではない。

確かに、中国指導部は経済の不振とそれに伴う社会不安に満足してはいない。ますます多くの若者や都市生活者が職を失い、キャリアや今後の人生に幻滅して、「躺平(タンピン)主義(諦め、寝転び主義)」が広がっている。現役世代の信頼を失うことが政治的正統性の危機に発展しかねないことを、指導部は知っている。

中国経済に関する不利な報道を抑圧

さらに、景気後退が中国政府に否定的な世論を招くことを懸念して、中国経済に関する不利な報道を抑圧しようとしている。国営メディアは投資家に積極的な話をするように働きかけ、騰訊(テンセント)の創業者、馬化騰(マー・ホアトン)などビジネス界の重鎮たちは政府の支援計画を公に支持することを要請されている。

ただし、経済不振に対する世論を恐れて当局が大規模な景気刺激策に踏み切るとは限らない。現金給付のような措置は、持続可能性と「闘争」を強調する習の経済ガバナンスの精神に反する。富の移転は政治的なパワーバランスを国民の側に傾けるかもしれず、習の国家主義思想に反する。

こうした政治的論理は、少なくとも短期的には、中国指導部が大規模な景気刺激策を打ち出すことを牽制するはずだ。もちろん、より長期的な展望は定かではない。いずれ政府が大規模な財政・金融刺激策を実施するとしても、それは積極的な政策の方向転換によるものではなく、大規模な経済危機や社会の不満の高まりによって強制される可能性が高い。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

香港長官が政策演説、経済と生活の向上に注力と表明

ワールド

米カリフォルニア大関係者がトランプ政権提訴、資金凍

ビジネス

アングル:外国投資家が中国株へ本格再参入うかがう、

ビジネス

ティッセンクルップ鉄鋼部門、印ナビーン・ジンダルか
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中