最新記事
中国経済

景気回復は期待外れで不動産危機も...追い詰められた「中国経済」、なのに景気刺激策にも出られない訳

Economic Stalemate

2023年8月30日(水)18時06分
ダン・マックリン(中国政治アナリスト)
上海の株価電光掲示板

中国の不動産バブルが崩壊すれば現体制の存在意義が問われかねない(上海の株価電光掲示板) HUGO HU/GETTY IMAGES

<景気回復が遅れても大規模な財政出動には慎重。習近平政権の新たな経済政策は、社会の不安や市場の不満に耐え切れるか>

中国にとって、さまざまな意味で厳しい夏になった。政界では不透明な状況で外相が更迭された。軍部では汚職と機密漏洩の噂が広まるなか、2人のトップが粛清された。外交では対米関係が萎縮したままだ。国内では北部が洪水で壊滅的な被害を受け、政府の対応に批判が集まっている。

しかし、指導部にとって最大の頭痛の種は経済だ。パンデミック後に期待された景気のリバウンドは行き詰まっている。消費者と投資家の心理が冷え込み、消費者物価指数の下落や若年層の記録的な失業率など、データが発表されるたびに状況は悪化している。

主な問題は、不動産部門の流動性の危機だ。不動産開発最大手の碧桂園(カントリー・ガーデン)や信託大手の中融国際信託の支払いが滞り、債務不履行が相次ぐ恐れが出てきた。こうした弱気のシグナルを受けて、世界の投資銀行は中国株と中国経済全体の見通しを引き下げている。

上海にいる筆者から見ても、陰鬱で悲観的な雰囲気は明らかだ。今年は習近平(シー・チンピン)国家主席の3期目が始動し、中国は新型コロナウイルスのパンデミックを乗り越えて復活を遂げるはずだった。しかし、実際は、経済実績はほぼ全ての指標で予想を下回っている。

政府は現在の回復軌道が不十分であることを認め、改善策を試みている。1月以降、一連の金利引き下げや不動産購入制限の緩和、株式市場支援策などで経済を押し上げようとしてきた。

7月末に共産党中央政治局は不動産部門の支援強化の方針を示した。習は8月中旬に発表された演説文(2月の演説とされている)で、経済的圧力が続いているが「歴史的な忍耐」と堅実な前進が必要だと強調している。

共産党の政治的正統性

ただし、こうした動きは実質的というよりレトリックにすぎない。大規模な景気刺激策が取られないことは、経済的苦境と向き合う中国指導部の決断力の限界を示唆している。GDPの成長率は指導部が許容できる範囲で踏みとどまっており、社会不安は政治的に懸念されるレベルまで悪化していないというわけだ。

長い目で見れば、彼らは現在の難局を、経済の新常態(ニューノーマル)に向かうために必要な調整と捉えている。中国共産党は「新発展理念」の下、「成長第一」の考え方から脱却し、習が「資本の無秩序な拡大」と呼ぶものを「より質の高い」発展に置き換えようとしている。これは景気刺激策の引き金が引かれない理由の1つでもある。

編集部よりお知らせ
ニュースの「その先」を、あなたに...ニューズウィーク日本版、noteで定期購読を開始
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

香港長官が政策演説、経済と生活の向上に注力と表明

ワールド

米カリフォルニア大関係者がトランプ政権提訴、資金凍

ビジネス

アングル:外国投資家が中国株へ本格再参入うかがう、

ビジネス

ティッセンクルップ鉄鋼部門、印ナビーン・ジンダルか
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中