最新記事
ミャンマー

スーチーを刑務所から出した軍事政権の「陳腐」な皮算用...一方、民主化運動には「脱スーチー」の動きも

2023年8月2日(水)11時14分
セバスチャン・ストランジオ(ディプロマット誌東南アジア担当エディター)
スーチー解放を求めるデモ

東京のミャンマー大使館前でスーチー解放を求めるデモ隊(2023年2月) ISSEI KATOーREUTERS

<ミャンマー軍事政権によって身柄を刑務所から移送された民主化指導者スーチーだが、その立ち位置は以前とは変化しつつある>

ミャンマーの軍事政権は、2021年2月の軍事クーデターで政権の座を追われた民主化指導者アウンサンスーチー(78)の身柄を刑務所から首都ネピドーの政府関連施設に移した。

 
 
 
 
 

AFP通信によれば、スーチーが所属する国民民主連盟(NLD)の関係者も「7月24日の夜に移送された」と述べた。スーチーは政府関係者が使用する住宅に移されたというビルマ語メディアの報道を追認した格好だ。

7月9日、軍部がタイのドーン外相とスーチーの面会を許可したときから移送の噂は広がっていた。この関係者はAFP通信に対し、スーチーがティ・クン・ミャ連邦議会下院議長と面会したことも確認したと語り、中国の鄧錫軍(トン・シーチュン)アジア担当特使とも面会するようだと答えた。

今回の移送は、7月末に予想される非常事態宣言の延長直前に行われた。同宣言の期限は当初、クーデター後1年間だったが、その後3度延長され、次で4度目となる。軍事政権への激しい抵抗が続いている証拠だ。

スーチーはクーデター当日の未明に身柄を拘束され、それ以降はずっと当局の厳重な監視下に置かれてきた。当初は首都の自宅で軟禁されていたが、昨年6月にネピドー刑務所の独居房に移送。その間に汚職、違法トランシーバー所持、新型コロナの行動規制違反など、多くのとっぴな犯罪容疑で合計33年の刑期を言い渡された。

新たな仏像の開眼と関係が?

この移送劇の意味はまだよく分からない。ニッケイ・アジア誌は、「軍部は来週、ネピドーでの新しい大理石の仏像開眼に合わせ、スーチーについてさらなる発表を行う可能性があるとの見方」があると報じている。問題の仏像は建設費約4000万ドル。高さ19メートル、大理石の座像としては世界一の高さを誇る。

スーチーの扱いが少しだけ改善されたからといって、軍事政権が「テロリスト」と呼び、武力による鎮圧を宣言している民主派勢力との和解を本気で望んでいるとは考えにくい。恐らくスーチーの象徴的な影響力を利用して国民感情を好転させ、国際的な圧力を緩和しようとする試みと考えるのが正解だろう。

軍部は長年、国内外におけるスーチーの象徴的イメージを自分たちのために利用しようとしてきた。実際、2010年代初頭にスーチーが軍主導の改革を支持したことは、欧米が1990年代から続けてきた経済制裁の解除に踏み切る要因の1つとなった。

座談会
「アフリカでビジネスをする」の理想と現実...国際協力銀行(JBIC)若手職員が語る体験談
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

現代自、米国生産を拡大へ 関税影響で利益率目標引き

ワールド

仏で緊縮財政抗議で大規模スト、80万人参加か 学校

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中