最新記事
外交

中国が460億円で土地購入した在英大使館移設計画が地元の反対で暗礁に 外交問題化で関係修復に難題

2023年7月17日(月)09時59分
ロイター

迫る期限

英国政府はこの計画プロセスから距離を置こうと努めてきたが、おそらく近いうちに態度を決める必要に迫られるだろう。

中国が大使館移転の計画拒否に不服を申し立てる期限は8月11日だ。

 
 
 
 

そうした不服申し立てを行う場合、最初のステップとして政府から独立した計画検査官への申請が必要になる。

計画検査院が申請について、対立の可能性をはらむ、あるいは国家的に重要であると判断した場合、ゴーブ住宅・地域社会相に相談を持ちかけることになる。ゴーブ氏が自身で最終決定を下したいと考えれば、決定権限を自治体から大臣に移す「コールイン」という手段を講じることができる。

状況がさらに複雑化するのはここからだ。

この問題には、中国が香港市民の自由を弾圧したことへの懸念、新疆ウイグル自治区での人権侵害問題、中国がセキュリティーシステムに侵入しようとしているとの疑念など、全てが絡んでくる。

英中は2018年以降、首脳レベルの直接会談を行っていない。昨年11月の国際会議に合わせて予定されていたスナク氏と習氏の会談は突然キャンセルされた。両国首脳が最後に電話会談を行ったのは1年以上前だ。

他の欧州諸国と同様、スナク政権は貿易、投資、気候変動などの分野で中国との協力を模索する一方で、中国がもたらす安全保障上の脅威を中和しようとする政策を採用している。

与党・保守党の元党首、イアン・ダンカン・スミス氏は、大使館計画阻止の決定を下すことにより、英国は対中関係において国家安全保障を優先していることを示せると指摘。政府の対中アプローチは「全てが非常にあいまいだ。屈服する用意はないと言えるようにしなければならない」とロイターに語り、より強硬な対中姿勢を求めた。

イスラム住民の不安

中国外務省は先月ロイターへの書面で、英政府は「国際的な義務」を守り、新たな大使館の建設を助けるべきだと表明。中国は互恵関係に基づく解決を望んでいるとした。

一方、英高官らは、北京での英大使館再建計画が影響を受けることを恐れていると述べた。

ある高官は、申請書は提出済みだが、許可はまだ下りていないと語った。申請書がいつ提出されたのかは明らかではない。

そして、ロンドン塔がある自治区、タワーハムレッツの住民のことも考慮しなければならない。

この地域の住民はイスラム教徒が多く、当初の計画段階では住民の一部が、中国はウイグル人を迫害しているとして問題視した。

評議員らは一時、地元の通りや新しい建物の名前を「Uyghur Court(ウイグル・コート)」や「Tiananmen Square(天安門広場)」と改名することで自分たちの主張を銘記したいと考えたが、この計画は採用されなかった。

住民らは地元の治安についても心配している。

住民のうち約300人は新しい大使館の敷地に隣接するアパートに住んでいるが、この土地を購入した中国がアパートの自由保有権者となり、事実上の大家となった。

住宅所有者を代表するロイヤル・ミント・コート住民協会のデーブ・レーク会長は、中国関係者がアパートに立ち入ったり、旗を禁止するなどの行動をとらないと約束すれば、地元の反対は減るかもしれないと述べた。

レーク氏が今一番懸念しているのは、英国と中国が地元住民を無視して強引に合意に至ることだ。

「絶望的な気分だ。私たちの手を離れてしまっており、まったく良い感じを受けない」とレーク氏。「私たちの治安問題はこんなにも重大なのに、無視されるのではないかと感じている」と不安を口にした。

(Andrew MacAskill記者、 Elizabeth Piper記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2023トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

キャリア
AI時代の転職こそ「人」の力を──テクノロジーと専門性を備えたLHHのコンサルティング
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米経済「想定より幾分堅調」、追加利下げの是非「会合

ビジネス

情報BOX:パウエルFRB議長の講演要旨

ワールド

米の対中関税11月1日発動、中国の行動次第=UST

ワールド

トランプ氏、ガザ停戦合意の「第2段階今始まる」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 5
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    あなたは何型に当てはまる?「5つの睡眠タイプ」で記…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中