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焦点:中東戦争、市場は想定以上の混乱覚悟 

2026年03月02日(月)13時39分

ニューヨーク証券取引所前で2023年12月撮影。 REUTERS/Eduardo Munoz

Vidya Ranganathan

[ロ‌ンドン 1日 ロイター] - 中東で戦争が勃発し、イランで最高指‌導者ハメネイ師が死亡して権力闘争が始まったことは、世界貿易からインフレに​至るまで経済全体に影響を及ぼす見通しで、金融市場は従来想定していた以上の混乱を覚悟する必要がありそうだ。

米国とイスラエルの攻撃でハメネイ師は2月28日に⁠死亡した。イランは湾岸諸国の都市に報復攻​撃を行い、航空便の運航は止まり、石油その他を積んだタンカーはホルムズ海峡を通過できなくなった。

市場にとって最初のリスクは、イランの将来を巡る不透明感だ。支配体制の複雑さ、体制支持基盤のイデオロギー的性質、革命防衛隊の権力が相まって、次の展開は見通しにくい。

これにより、ここ数週間上昇していた原油価格の見通しはさらに複雑化した。原油価格の動きを握るのは産油国の動向や中東にお⁠けるタンカーの航行で、これは世界的なインフレ、さらには「安全資産」とされてきた債券の安全性にまで影響を及ぼす。

シンガポールのイーストスプリング・インベストメンツで債券チームのポートフォリオマネージャー⁠を務める​ロン・レン・ゴー氏は「中東のテールリスク(予測困難な重大リスク)は増大した。イランが交渉を望むと言い出さない限り、市場が織り込むのは地政学的ショックから、単なる報復にとどまらない体制リスクのショックや紛争長期化へと拡大するだろう」と語った。

アナリストらは、より大きなリスクは市場の「慢心」にあると言う。昨年6月にイランで起きた「12日間戦争」やロシアによる度重なるウクライナ攻撃と同様、今回も影響は限定だと市場は想定しており、1979年のイラン革命に匹敵するとは考えていない。

バークレイズのアナリストらは28日のリポートに、経験則では紛争勃発時⁠にはむしろ「地政学リスクプレミアムを売る(リスク資産を買う)」方が得策だったが、「心‌配なのは投資家がこのパターンを習得したがゆえに、事態の封じ込めが失敗するシナリオを十分織り込んでいない可能性だ」と記⁠した。

同社ア⁠ナリストは、紛争がエスカレートした場合、人口知能(AI)ブームやプライベートクレジット市場を巡る既存の不安感が売りを加速させかねないとも指摘。「目先の押し目買いは推奨しない。リスク・リウォード(リスクとリターンのバランス)が魅力的とは思えないからだ。S&P500種総合株価指数が10%余り下落するなど、株価が十分に調整すれば買いの好機が訪れそうだが、今はまだその時ではない」とくぎを刺した。

<安全資産は>

地政学投資コンサルティング会社シグナ‌ム・グローバル・アドバイザーズの創設者兼会長、チャールズ・マイヤーズ氏は「市場は限定的なピンポイント​攻撃に対‌しては準備ができている。織り込んでいない⁠のは、体制を崩壊させるような大規模な攻撃だ」と述​べた。これは週末の米・イスラエルによる攻撃の前の発言だ。

キャピタル・エコノミクスのチーフ新興国経済担当エコノミスト、ウィリアム・ジャクソン氏は、紛争の長期化が供給に影響を与えれば原油価格は1バレル=100ドル前後まで急騰し、世界のインフレ率を0.6―0.7%ポイント押し上げる可能性があると予想した。

チューリヒを拠点とするGFMアセット・マネジメントのウェルスアドバイザー、タリク・デニソン氏は「私見では、市場はすでにインフレ圧力を過大評価しているため、この点は大‌きく変わらないだろう。ロシアのウクライナ攻撃後、欧州がホルムズ海峡経由の原油・天然ガスへの依存を強めていることを踏まえると、米国よりも欧州への影響の方が大きくなる」と語った。

同氏は「金(ゴールド)は短​期的にはわずかに上昇するかもしれないが、金相場はすでに地政学的な⁠不確実性を最大限に織り込んでいる」と付け加えた。

イーストスプリングのゴー氏は、米10年国債利回りが着実に低下し、4%を下回っていると指摘。「現在の事態が長引き、原油価格の急騰がインフレを誘発するのであれば、今米国債を買うのが良いとは言い切れない」と述べた。

一方、イランが湾​岸地域の貿易を停滞させることは無理で、原油価格への影響は限定的だと予測するアナリストもいる。

米ヤルデニ・リサーチのエド・ヤルデニ社長は「S&P500は週明け2日朝に売られた後、中東戦争終結後の原油安への期待から上昇に転じたとしても驚きはない」とし、「金価格も2日には『行ってこい』になるかもしれない。債券は安全資産としての需要と、戦後の原油安予想の両面から利回りが低下する可能性がある」と予想した。

ロイター
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