最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナの二正面作戦でロシアは股裂き状態

Putin's Border Dilemma

2023年6月6日(火)19時32分
デービッド・ブレナン

反プーチンの自由ロシア軍団がベルゴロドの軍事目標を攻撃したとしてリリースしたドローン映像より(6月1日) Freedom Of Russia Legion/REUTERS

<ウクライナ側と協力して国境地帯を攻めるロシアの反プーチン武装勢力を叩くか、反転攻勢に備えてウクライナの占領地域を守るか。両方に割ける兵力はない>

【動画】ロシア治安部隊と自由ロシア軍団の戦闘の様子...ベルゴロド攻撃の「戦利品」

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が窮地に追い込まれているようだ。

ロシア軍はウクライナ軍による2つの攻勢に直面している。一つはウクライナ軍に協力するロシア人武装勢力がロシアの国境付近で破壊行為を行いながら展開している件。もう一つは、ロシアが占領したウクライナ一部地域の奪還を目指し、ウクライナ軍が準備を進めてきた大規模反転攻勢だ。

国境地帯で続いている無人機攻撃や砲撃は、ロシアの国境防衛が甘く、国境地帯に暮らすロシア市民の安全が確保できていないことを示しており、プーチンとロシア軍にとって恥辱だ。一方の反転攻勢は戦略上の脅威を意味し、ウクライナ側が目的を達成すれば、ウクライナ南部と東部の広い地域をロシアに統合するというプーチンの野望は砕け散る。

有力シンクタンク「国際危機グループ」のロシア担当上級アナリスト、オレグ・イグナトフは本誌に対し、ロシア政府は同時発生したこの2つの問題により、身動きが取れない状態にあると語った。

イグナトフはロシアの戦略立案者について、「彼らには今、選択肢がない」と指摘する。「ウクライナがロシア軍の兵力を分散させようとしていることは彼らもわかっている。ウクライナ側は、ロシアが国境地帯の脅威に攻撃に反応して、ウクライナ国内にいるロシア軍部隊を国境付近に向かわせることを狙っている」と述べた。

せっかくの要塞が空っぽに?

「だが国境のロシア側に兵力を差し向ければ、ウクライナ南部や東部の拠点が手薄になる。ロシア軍は各所で反攻に備えた要塞化を進めてきたが、兵士がいなければ要塞も意味がない」

海外の有識者や超国家主義のロシア人ブロガーは、越境攻撃が行われたことに驚きを表明している。この数週間、ウクライナ軍に協力するロシア人武装組織「自由ロシア軍団」と「ロシア義勇軍団」がウクライナ側からロシア側へ越境攻撃を仕掛けているのだ。

ウクライナと国境を接するベルゴロドに暮らすロシア人住民はすでに慌てて避難を始めている。反ロシアの武装組織は、ロシア軍の複数の兵士を捕虜にしたとも主張しており、ロシア側に捕えられているウクライナの捕虜との交換交渉を持ちかけている。


米シンクタンク「戦争研究所」は4日に発表した報告書の中で、「ベルゴロド州への攻撃について、ロシア側の反応や報道が少ないことは、ロシア指導部がいまだに対応を決めかねている証拠かもしれない」と指摘した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

昨年の北半球、過去2000年で最も暑い夏

ビジネス

MSCI、世界株指数の銘柄入れ替え

ワールド

北朝鮮の金総書記、戦術ミサイルシステム視察=KCN

ビジネス

米ウォルマート、数百人削減へ 本社などへの異動も要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 7

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中