最新記事
農業

ウクライナ、反転攻勢への徴兵で経験豊富な働き手失う農業 種まきや収穫に試練

2023年5月15日(月)10時32分
ロイター

ホイジンガさんはウクライナ軍に機器や資金を積極的に供出しており、軍が農機やトラックの運転に慣れた人を徴募するのはもっともだと理解を示しつつも、機械修理の中心的な担い手が14カ月前に出征した痛手を実感している。

「彼はとても素早く機械を直してくれる。トラクターが壊れても対応できる。今いる新人は(修理に)1時間か1時間半はかかる。もちろんこれから経験を積んでいくが、数年を要するだろう」という。

兵役免除の限界

ウクライナは、肥沃な黒土に覆われた大平原と黒海沿岸の港湾を持つ世界有数の穀物輸出国。農産物輸出は、ロシアの侵攻前には国内総生産(GDP)の約12%を占め、全輸出の6割に達していた。

ただ戦争で状況は一変し、2021穀物年度に過去最高の8600万トンだった穀物生産量は22年度におよそ5300万トンに減少したもようで、今年度は最悪の場合、4430万トンにまで落ち込む恐れがある。

そうした中でウクライナ政府は、穀物増産に向けて一部の農場を経済にとって極めて重要な機関と指定し、従業員の兵役免除を認める法律を制定した。

先月にはこの指定を受ける基準が緩和され、農場の面積に関する要件が1000ヘクタールから500ヘクタールに下がったほか、保険適用労働者の平均人数も最低50人から20人に変更された。その結果、対象となる農場が増えた。

農務省高官は「状況は非常に緊迫している。だが軍の動員が農業セクターにとって必要な労働を阻んだり、大幅に制限したりしたと言うのは間違っている」と述べた。

それでも、特に年初時点で徴兵対象者が拡大されたため、農業従事者が兵役を必ずしも回避できる状況になっていない、と2人の農家は反論している。

そもそもウクライナの農村地帯では、過去数十年で多くの若者が都市部へ去っていく流れが続いているため、働く意思や能力がある人材の母集団がそれほど大きくないとみられる。

また過剰に徴兵されるのを防ぐ上では、こうした法律や規則よりも地元の徴兵事務所と良好な関係を築いたり、軍に物資提供を申し出たりする方が効果的なケースもある。

首都キーウ東部バリシェフカの穀物企業グレイン・アライアンスは、従業員1100人中51人が現在、「ウクライナを守っている」と明かした。同社は5万7000ヘクタールの土地を有し、このうち5万4000ヘクタールを耕地化している。

同社は声明で「ウクライナの国防力を強化する措置の緊急性と重要性は理解している。しかしその次には、農業セクターに対して適切な人材を供給するという重大な問題がある」と指摘。「ウクライナと国民の食料保障は戦争に勝利するためにも大事だ」とした上で、種まきと収穫の作業に十分な労働力を確保するため国防当局と協力していると付け加えた。

農業団体のある幹部は、今年の状況は「難しいが致命的ではない」と語り、その理由としてある程度の労働力を守る手だてがなされている点を挙げた。具体的には女性のより積極的な活用や、戦争で行き場を失った人の採用、今いる従業員の再訓練などに取り組んでいるという。

(Elizabeth Piper記者 Pavel Polityuk記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2023トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


食と健康
消費者も販売員も健康に...「安全で美味しい」冷凍食品を届け続けて半世紀、その歩みと「オンリーワンの強み」
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

OECD、25年世界成長率3.2%に引き上げ 米関

ビジネス

英総合PMI、9月速報51.0に低下 新たな増税を

ワールド

日米韓外相が会談、台湾・南シナ海情勢に懸念表明 北

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、9月速報16カ月ぶり高水準 新
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがたどり着ける「究極の筋トレ」とは?
  • 3
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 4
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 7
    「より良い明日」の実現に向けて、スモークレスな世…
  • 8
    「汚い」「失礼すぎる」飛行機で昼寝から目覚めた女…
  • 9
    米専門職向け「H-1B」ビザ「手数料1500万円」の新大…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「コメの消費量」が多い国は…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 4
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 5
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 6
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 7
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 8
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中