最新記事
反転攻勢

【独占】反転攻勢への過剰な期待はウクライナに不幸を招く──駐英大使

Russia Has Achieved Key Goals in Ukraine, Says Diplomat

2023年4月20日(木)14時20分
デービッド・ブレナン

ロシアのウクライナ侵攻1年に、スナク英首相(右から3番目)とともに黙祷を捧げるプリスタイコ駐イギリス大使(右から4番目。2月24日、英首相官邸前) Peter Nicholls-REUTERS

<巨大な敵を相手に奇跡的に善戦してきたウクライナ軍だが、奪われた領土をすぐに取り戻せなかったとしても、ロシアに対して独立と民主主義を守り抜いたことを忘れないで欲しい。交渉になれば、ロシアはクリミアへの地上路をまんまと奪い取ることになる>

ウクライナはこの春予定とされる反攻で、ロシア軍が既に収めた大きな軍事的成功を覆すだけの成果を上げなくてはならないが、そうならなくても失望しないで欲しい、とウクライナのバディム・プリスタイコ駐イギリス大使が語った。

【マップ】ロシアの大きな軍事的成功とは


プリスタイコはウクライナの外相やカナダ大使、駐NATOウクライナ代表部を歴任した外交官。ロンドンで本誌のインタビューに応じ、西側の同盟国は、ウクライナによる春の大規模反転攻勢に注目していながら、勝利を確実にできるほどの支援をしていない、と述べた。

ウクライナとパートナー国は、ウラジーミル・プーチン大統領の術中にはまる危険がある、とプリスタイコは言う。プーチンは西側の分裂を誘い、ロシア軍が支配したウクライナ領土を譲らないまま戦争を凍結しようとしているという。

「反攻は極めて重要であり、そこに懸ける期待は大きいが、非常に不健全な状況でもある」と、プリスタイコは言った。「何か問題が起きたり、期待した成果を出せないことになれば、人々はあらゆる言い訳をしながら交渉を勧め始めるだろう」

ロシアは欲しいものは手に入れた

あまり認識されていないが、ロシア軍は大きな戦果を手にしている。「ロシアはすでに多くの成果を得ている。だからいつでも、交渉のテーブルにつくことができる」

「一方、ウクライナにとって交渉は、失うことを意味する。最低でもクリミアを奪われることは天才でなくても理解できる」

確かに、首都キーウを占領し、ゼレンスキー政権の崩壊をもくろんだロシアの作戦は見事に失敗した。欧米やウクライナの軍関係者によれば、ロシアは14カ月近くの戦闘で数十万人の死傷者を出したとみられている。この間、ロシア軍が大きな勝利を得たことはほとんどなく、屈辱的な退却を何度も強いられた。

だがウクライナも苦しんでいる。ウクライナの存亡をかけた戦いは、少なくとも数万人の命を奪い、経済は荒廃し、1400万人が行き場をなくした。800万人が国外に避難し、国土の20%近くが占領されたとみられている。

中国の習近平国家主席やブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領など一部の指導者が求めているように、今すぐ戦争を終わらせても、ロシアは国境からクリミア半島まで地続きの領土を手にすることができる。ロシアにとってこれは勝利を意味する、とプリスタイコは言う。

対談
為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 セカンドキャリアの前に「考えるべき」こととは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米財務長官、インドとの貿易合意「非常に近い」

ビジネス

第2四半期米新車販売、主力メーカーは軒並み増 下半

ワールド

トランプ氏、フロリダの不法移民収容施設「ワニのアル

ワールド

トランプ氏、テスラへの補助金削減を示唆 マスク氏と
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    未来の戦争に「アイアンマン」が参戦?両手から気流…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中