最新記事
冤罪

「希望を捨てるわけにはいかなかった」冤罪で38年も服役...無罪を勝ち取った男の激白

I Was Falsely Imprisoned

2023年4月12日(水)12時20分
モーリス・ヘイスティングス(69歳、冤罪被害者)
モーリス・ヘイスティングス

今年3月1日、ロサンゼルス郡高裁で無罪が確定した瞬間のヘイスティングス 代表撮影ーAP/AFLO

<終身刑でも希望を捨てずに真実を求め続け、ついに無罪を勝ち取った黒人男性が本誌に激白>

本当に逮捕されたときは目の前が真っ暗になった。

事の始まりは1983年の6月19日。私はロサンゼルスにいた。住んでいたのは東部のピッツバーグだが、友人に誘われたので、カリフォルニアで一緒に週末を過ごすことにした。ビーチを散歩して、食事して、パーティーにも行った。素敵な晩だったよ。

そこへ友人から電話があって、私の車が盗まれたらしいと言われた。気になるからピッツバーグへ電話しようと思った。でも、当時の長距離電話料金はえらく高かった。

そしたら別の友人が、テレフォンカードをくれた。それで、誰のものとも知らずに6月21日以降、そいつで何度かピッツバーグに電話した。

家に戻ると、母親が心配そうに「あんた、うちへ電話するのに暗証番号付きカードを使ったかい?」と聞いてきた。使ったと答えたら、「やめな。殺人課の刑事が来て、そのカードを使った人を捜していると言ったよ」って。あとで知ったんだが、そのカードは6月19日にロサンゼルス近郊で起きた性的暴行・強盗殺人の被害者のものだった。

母に言われて、すぐにやめた。でも手遅れだった。翌年の10月、私は殺人や強盗、殺人未遂の容疑で逮捕された。

公判は86年に始まった。でも法廷に提出された証拠の大半は状況証拠で、物的証拠は何もなかった。警察の捜査はずさんで、担当の検事は早く有罪の評決がほしいだけ。私にはそう思えた。結局、88年に有罪評決が出て、仮釈放なしの終身刑を言い渡された。

決め手はDNA鑑定

刑務所ではひたすら祈った。希望を捨てるわけにはいかなかった。控訴したかったが、うまくいかない。法医学的分析が確立され始めた90年代には、被害者に付着していた体液のDNA鑑定も求めた。でも、廃棄済みだと言われた。

悔しくて、外部の団体に支援を求めた。それでポーラ・ミッチェルと出会った。彼女は当時、ロヨラ大学法科大学院で「無実の人のためのプロジェクト」を率いていた。

彼女たち、そしてカリフォルニア州立大学ロサンゼルス校の法医学研究所が動き始めると、廃棄されたはずのDNA検体が出てきた。これを第三者機関に送って調べてもらったら、絶対に私のDNAではないという判定が出た。

ポーラが電話で、そのニュースを教えてくれたけれど、最初はちょっと耳を疑った。こんなに長く待たされたのに、あまりに速い展開だった。夢じゃないか、本当に自由を取り戻すチャンスが来たのかって思った。何度も何度も裏切られてきたから。

SDGs
2100年には「寿司」がなくなる?...斎藤佑樹×佐座槙苗と学ぶ「サステナビリティ」 スポーツ界にも危機が迫る!?
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、政府閉鎖中も政策判断可能 代替データ活用=

ワールド

米政府閉鎖の影響「想定より深刻」、再開後は速やかに

ビジネス

英中銀の12月利下げを予想、主要金融機関 利下げな

ビジネス

FRB、利下げは慎重に進める必要 中立金利に接近=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が語る「助かった人たちの行動」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 9
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中