最新記事

BOOKS

息を吸うように売春する女性たち──ホストクラブはかつてのAV業界、パチンコ業界と同じ道へ?

2023年3月1日(水)20時00分
印南敦史(作家、書評家)
新宿歌舞伎町

写真はイメージです dekitateyo-shutterstock

<歌舞伎町では今、ホストを中心とし、モテない中年男性を最底辺とする「食物連鎖」が形成されている。若い女性が男に貢ぐために体を売るのは、今や「常識」であるらしい>


 いま歌舞伎町で起こっていることは、暴力団の衰退、ホストを中心としモテない中年男性を最底辺とする"カネの食物連鎖"の固定化、Z世代(1996年以降生まれ)の若者たちの台頭、そして「男に貢ぐ」ために息を吸うように売春する女性たちの増加だ。歌舞伎町の多くの女性は失業や低収入ではなく、男に貢ぐために貧困化している。(「はじめに」より)

『歌舞伎町と貧困女子』(中村淳彦・著、宝島社新書)冒頭のこの文章を目にしたとき、いまひとつピンとこなかったことは白状しておかねばなるまい。つまり、それまでの私は、実際そこにあるのであろう"歌舞伎町の現実"をまったく理解していなかったということだ。

もちろん、歌舞伎町の「トー横エリア」で起きていることはなんとなく知ってはいた(つもりでいた)。居場所がなくてそこに集う子供たちのことを痛ましく感じていたし、大人の端くれとしてきちんと考えなくてはならないとも思ってはいた。

だが本書を読み進むにつれ、それらとは別の......いや、別ではないのかもしれないが、こちらの想像をはるかに上回る何かが起こっていることを実感せざるを得なかったのだ。

Z世代の女の子たちが歌舞伎町に流入するようになったのは、当然ながら彼女たちに居場所がなかったからだ。だが、どうやらそれで話は収まらないようだ。著者によれば、そうやって集まってきた女性たちが歌舞伎町で売春するのは今や常識であるらしい。

もちろん、原因はひとつではないだろう。が、最も大きな要因はホストの存在だ。"ホス狂い"になってしまうと、いくらお金があっても足りない「底なし沼」に陥ることになってしまうということだ。

ホストクラブでは、初回のみ1000〜2000円という安価で遊ぶことができる。その間、イケメンホストが次から次へと席に訪れ、明るく挨拶して軽妙な会話を展開する。そういった非日常性に惹かれた女性がどんどんホストにハマっていくという構図は、すでに語り尽くされたものでもある。

いずれにしても、そこまで到達してしまうと現実社会に戻るのは難しく、2回目以降にそのホストクラブに行こうとすれば、誰かを指名しなくてはならない。ホストクラブは、一度指名すると、その店では指名したホスト以外を指名できなくなる"永久指名制"だ。

ちなみに女性たちは指名しているホストのことを「担当」と呼び、担当は指名してくれた女性を「姫」と呼ぶらしい。女性の心理につけ込んだ、非常に巧妙なビジネスモデルではある。


「担当に初めて会った日、私すごく酔っぱらっていた。正直、何も覚えてない。顔がいい、くらいの記憶しかないかな。2回目に会ったときは、なんか優しい人だなって。こんな人だったっけ、みたいな。優しいから指名するようになりました。最初は一回の会計が数万円だったけど、なんかだんだんと20万円、30万円って使うようになって、気づいたらいまみたいになっちゃった。担当が喜んでくれるからシャンパンを下ろしちゃう」(85ページより)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ和平計画、停戦と人質解放で合意 トランプ氏「素

ビジネス

新興国市場へのポートフォリオ流入額、5月以来の低水

ワールド

英ユダヤ教会堂襲撃事件、射殺された容疑者は「イスラ

ワールド

原油先物下落、ガザ停戦合意でリスクプレミアム縮小
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ「過激派」から「精鋭」へと変わったのか?
  • 3
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示す新たなグレーゾーン戦略
  • 4
    ヒゲワシの巣で「貴重なお宝」を次々発見...700年前…
  • 5
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 6
    インフレで4割が「貯蓄ゼロ」、ゴールドマン・サック…
  • 7
    【クイズ】イタリアではない?...世界で最も「ニンニ…
  • 8
    「それって、死体?...」新婚旅行中の男性のビデオに…
  • 9
    あなたは何型に当てはまる?「5つの睡眠タイプ」で記…
  • 10
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 5
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 8
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 9
    更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中