最新記事

東南アジア

ミャンマー軍政、クーデター2年で戒厳令拡大 スー・チーには弁護団と面会させず

2023年3月1日(水)12時50分
大塚智彦

刑務所内では一般の服役囚もおり面会に訪れる親族もいるが、一般服役囚の目にも触れない場所でスー・チー氏は服役しているものとみられ、12月の結審以降全くその動静が外部に伝わってこない状況となっている。

これは軍政がスー・チー氏、ウィン・ミン氏を完全に孤立化させて精神的ダメージを与えると同時に、民主政治復活を求めて軍政と武装闘争を続けている武装市民組織「国民防衛軍(PDF)」などの戦闘意欲をくじくことを意図しているとみられている。

スー・チー、反軍政運動の若者を称賛

ネピドーの刑務所内に設けられた特別法廷でスー・チー氏と会ったことがあるNLDの元議員マウン・マウン・スエ氏はスー・チー氏が反軍政運動に携わる若者を称え、尊敬していると述べたという。

「彼女は革命に関与している全ての若者を称賛し、『彼らに協力して助けるように。党の全員が彼らと共に働くように』との伝言を託した」としている。

スエ氏は裁判で禁固2年の実刑判決を受けて服役中だったが2022年11月に恩赦で釈放され、スー・チー氏の言葉を明らかにした。

スエ氏は11月の恩赦でネピドー刑務所から釈放されていることから、スー・チー氏の若者へのメッセージは11月以前、まだ公判中の時期のものとみられる。

弁護団が法廷でのスー・チー氏の様子や発言などをメディアなど外部に漏らすことを軍政が禁じて以来、久々のスー・チー氏の「声」として武装して軍政に抵抗する市民らには力強い言葉となったのは間違いない。

こうした「外部漏洩」を阻止するためにも軍政側は弁護団の面会を不許可としているものとみられており、人権団体や欧米などは「基本的人権を妨害している」として軍政を厳しく非難している。

戒厳令を拡大、抵抗勢力への弾圧強化

軍政は武装市民による抵抗が根強く各地で激しい戦闘が続いていることなどから、それまでヤンゴンなど7郡区に出していた戒厳令を2月2日に北部サガイン地方域やチン州など8地方域・州の37郡区に拡大。22日には新たにサガイン地方域の3郡区への戒厳令を追加した。

戒厳令下では行政や司法の全権が軍に移譲されることとされ、今後各地で軍政による弾圧が一層強化される懸念が高まっている。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、和平に向けた譲歩否定 「ボールは欧州と

ビジネス

FRB、追加利下げ「緊急性なし」 これまでの緩和で

ワールド

ガザ飢きんは解消も、支援停止なら来春に再び危機=国

ワールド

ロシア中銀が0.5%利下げ、政策金利16% プーチ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 8
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 9
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 10
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中