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ウクライナ避難民2000万の悲と哀──将来を見通せない人々...1年目の本音は

No Place Like Home

2023年2月28日(火)14時10分
マイケル・ワシウラ(オデーサ在住ジャーナリスト)

「避難用の車ではなく弾薬を」と訴え続ける大統領のウォロディミル・ゼレンスキーは諸外国から絶賛を浴びているが、人口が3倍超で核兵器もある大国からの総攻撃に1年間も耐えてこられたのは、慢性的に資金不足で機能不全なのに汚職まみれの政府の功績ではない。無名だけれど誇り高い国民のおかげだ。

「ヨーロッパに逃げて、自分自身と息子のために物質的にもっといい生活を送るという選択肢もあった」と言うのは、ウクライナ中部のドニプロで「ドニプロ・チャーム」という避難民向けシェルターを運営しているアレクサンドラ・ナウメンコ。本業は会計士だ。「でも私は思う。最前線に比べたら、この辺りはずっと平穏。だから、激戦地からここまで逃げてきた人たちを支え、助けてあげる。それが私たちの責任でしょう」

ロシア軍の侵攻が始まった当時、ドニプロには東部ドンバス地方からの避難民や、占領されたメリトポリやマリウポリを脱出した人々が集まっていた。その数、最大で50万弱。非営利団体ワールド・セントラル・キッチンのボランティアが出動して、みんなに食事を配ったという。

だが東部ルハンスク州でリシチャンシクとセベロドネツクが陥落した昨年7月以降は、逃げてくる人が減った。ロシア軍の検問が厳しくて、なかなか脱出できないからだ。

今でもバフムートやソレダールなどから逃れてくる人はいるが、数は多くない。ドニプロ・チャームには一時期、定員の2倍の200人もいたが、今は80人前後だ。

笑いを忘れた大人たち

「ここへ来てから半年以上になる人も何人かいる。でも私たちは人々に自立を促し、ウクライナの西部であれヨーロッパのどこかであれ、ずっと暮らせる場所を見つけるよう促している」とナウメンコは記者に語った。「戦争が始まって以来、このシェルターを利用したのは延べ5000人。そのほとんどが、最終的には長く暮らせる場所を見つけて出て行った」

開戦1周年を間近に控えた2月のある火曜日の午後、ドニプロ・チャームに暮らす人々は仮設のキッチンに集まり、お茶とクッキーをつまんで世間話に興じていた。待つこと1時間、リュドミラという名の老婦人が温かいチキンスープを運んできた。

このシェルターには子供たちもいて、リモートで地元の学校の授業を受けている。ナウメンコも、息子をここへ連れてきている。何度もロシア軍のロケット砲の標的になった工業地帯からそれほど遠くないアパートに、息子を残してはおけないからだ。

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