国家転覆を狙う「加速主義者」の標的は「電力インフラ」──未解決事件が相次ぐアメリカ

PROTECTING THE GRID

2023年2月16日(木)15時45分
トム・オコナー(米国版シニアライター)、ナビード・ジャマリ(米国版記者)

極右のウェブサイトや電子掲示板をのぞくと、何人かで示し合わせて一斉攻撃をする計画が盛んに語られているのだ。本誌がチェックした投稿には、変電所に最大限の損害を及ぼすノウハウを伝授するものもあった。

アメリカの電力網は国内居住者によるテロに驚くほど無防備だ。電力網は全長何十万キロにも及ぶ高圧線と何万カ所もの変電所で成り立っている。規制当局も運営会社も、国内にいるテロリストの一斉攻撃を想定した対策をほとんど取っていない。

国家基盤が揺らぐ危険性も

ただの停電と侮るなかれ。長期間の広域停電は多くの人命を奪いかねない。極右やネオナチはそんな惨事を簡単に引き起こせる。

少人数で示し合わせて電力ネットワークの重要なポイントのいくつかに連続攻撃を行うだけでいい。それも高度な技術は不要。銃や爆発物で事足りる──このことはセキュリティー専門家の間では公然の秘密だ。

「物理的攻撃で設備が損傷を受ければ、交換に数週間、数カ月、場合によっては数年かかることもある」と、米陸軍の元上級曹長で電力インフラの脆弱性に詳しいマイケル・メイビーは言う。

「物理的攻撃で十分な数の変圧器が破壊されたら、長期の広域停電が起き、死者は何万、何十万、いや何百万人にも上りかねない」

専門家が警戒を強めたきっかけはムーア郡で起きた事件だ。電力供給は大打撃を受けたが犯人は捕まっておらず、この事件はその後に広い範囲で相次いだ電力インフラ攻撃と関連があるとみられている。

電力網に修復不能の損傷を及ぼすことを狙って、こうした攻撃が繰り返し計画的に行われれば、市民生活は麻痺し「アメリカの国家基盤そのものが危うくなる」と、メイビーは警告する。

ムーア郡の事件で犯行声明を出した組織はないが、当局は保守派組織「ムーア郡自由のための市民」を捜査中だ。主宰者のエミリー・グレース・レイニーは米陸軍の心理戦の元将校で、21年1月6日の連邦議会議事堂襲撃に加わったグループを率いた疑いで取り調べを受けている。

レイニーは変電所が攻撃された時期に地元の劇場で開催されたドラァグクィーンコンテストを妨害する極右の活動に支持を表明。

さらにネット上で変電所攻撃が「なぜ起きたか知っている」と主張し、同性愛を擁護するイベントを催した「ムーア郡を罰する」ため「神」が停電を起こしたと述べたため、ムーア郡保安官事務所は彼女の自宅を家宅捜索した。だが今のところ彼女も組織のほかのメンバーも起訴されていない。

これまでに起きた電力網攻撃の多くは犯人が分かっていないが(国内のテロ組織は通常、犯行声明を出さない)、本誌が入手した文書から国内の過激派が資料やマニフェストをシェアしていることがうかがえる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、「中立金利」到達まで0.5%幅の利下げ必要

ワールド

米国版の半導体の集積拠点、台湾が「協力分野」で構想

ワールド

アフガン北部でM6.3の地震、20人死亡・数百人負

ワールド

米国防長官が板門店訪問、米韓同盟の強さ象徴と韓国国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中