最新記事

ジェンダー格差

賃金の男女格差は都道府県によってこんなに違う

2023年2月1日(水)11時45分
舞田敏彦(教育社会学者)
収入の男女格差

賃金の男女格差は自治体、企業などの細かいレベルでチェックして改善しなければならない stefanovsky/iStock.

<全国の13の県では、年収の男女格差を示すジニ係数が「常軌を逸する」レベルにある>

男女共同参画の取組が盛んだが、日本はあらゆる面で性別による(不当な)格差が大きい国だ。たとえば賃金で、日本のフルタイム就業者の年収の性差は、データがあるOECD加盟国の中で最も大きい(拙稿「日本の男女の収入格差は、先進国でダントツのトップ」)。

女性は結婚したら稼ぎにくくなるので、結婚相手の男性に高い収入を求めざるを得ない。だがこのご時世、男性の給与も減っているので、希望に沿う相手は見つかりにくい。その結果、未婚化・少子化が進行する。大っぴらに言われることはないが、こういう現実があることも否めない。結婚した夫婦にしても、夫の収入への依存度が高いと虐待やDVのような問題も起きやすくなる。

賃金の男女格差を是正し、二馬力で安定した収入を得られるようにするとともに、ライフステージに応じて、柔軟に役割変更できるようにすることも望まれる。国や自治体は賃金の性差を絶えず「見える化」し、状況の改善に努める責務を有する。やや古いが、2017年の官庁統計で正社員男女の年収分布をとると<表1>のようになる。

data230201-chart01.png

働き盛りの正社員(男性1758万人、女性816万人)を、11の年収階層に分けた結果だ。真ん中の相対度数を見ると、男性と女性では分布はかなり違っている。年収600万円以上は男性では30%だが、女性では9%しかいない。その代わり、女性では年収300万円未満が43%を占める。

中央値は男性が476万円で、女性は330万円。働き盛りの正社員でこの数字は驚きだが、女性は自活ができるのかと危ぶまれるほど低い。年収の性差はこの中央値を比べれば分かるが、中央値(median)はちょうど真ん中の値というだけで、他の分布の特性は見えなくなってしまう。

年収の分布全体がどれほどズレているかは、<表1>の右端の累積相対度数をグラフにすることで可視化される。<図1>は横軸に女性、縦軸に男性の累積相対度数を取った座標上に、11の年収階層(G1~G11)のドットを配置し線でつないだものだ。この曲線をローレンツ曲線という。

data230201-chart02.png

この曲線の底が深いほど横軸と縦軸、すなわち男女の年収分布のズレが大きいことになる。対角線と曲線で囲まれた部分の面積(色付き)を2倍した値がジニ係数で、ズレが最も大きい場合、色付きの部分の面積は0.5(正方形の半分)となるから、ジニ係数はこれを2倍して1.0となる。逆に完全平等の場合、対角線と曲線は重なるのでジニ係数は0.0となる。現実の不平等の度合いは、この両端の間のどこかに位置する。

<図1>の色付き部分の面積は0.2105なので、ジニ係数はこれを2倍して0.4209となる。正社員男女の年収格差の数値化だ。ジニ係数は0.4を超えると常軌を逸して高いと判断されるので、日本の正社員の年収の性差は許容できる範囲を超えて大きい、ということになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中