最新記事

日本のヤバい未来 2050

日本の製造業は高齢者と外国人が主力、人口減少で革新的ヒットが生まれづらくなるこれだけの理由

THE FORECAST FOR SHRINKING JAPAN

2023年1月31日(火)16時45分
河合雅司(作家・ジャーナリスト)

一方で、新規学卒者は増加傾向にある。全新規学卒者における製造業への入職割合もこの数年は12%前後を維持している。にもかかわらず、34歳以下の就業者の割合が減っているのはこの年代で退職する人が多いためだ。

結果として、中途採用がメインとなっている企業が増えている。独立行政法人労働政策研究・研修機構の「ものづくり産業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)に対応した人材の確保・育成や働き方に関する調査結果」(調査時期は2020年12月)によれば、2017~2019年度に中途採用を「募集しなかった」企業は13.4%にとどまり、「中途採用が中心」という方針の企業は52.6%と半数を超えている。

とはいえ、新規学卒者や中途採用者で定年退職や離職者の穴を埋めるだけの人数を確保し切れていない状況に変わりはない。このまま、海外に製造拠点を移転させた企業の国内回帰の動きが大きくなれば人材確保はさらに厳しさを増すことになる。

若い就業者が計画どおり採用できず、定着もしないとなると、必然的にベテラン勢に頼らざるを得なくなる。製造業の65歳以上の就業は2012年頃から2017年まで上昇カーブを描いた。「2022年版ものづくり白書」によれば、2002年は58万人だったが2021年は91万人にまで増えた。これは製造業全体の就業者の8.7%に当たる。日本の製造現場の1割近くは高齢社員によって支えられているのだ。

他方、厚生労働省の「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」(2021年10月末現在)によれば、外国人を雇用している製造業の事業所は2017年の4万3293カ所から年々増え2021年は5万2363カ所になっている。新型コロナウイルス感染症に伴う入国制限で2020年以降は微減となっているが、コロナ禍前は急増していた。2017年(38万5997人)と2019年(48万3278人)を比較しても9万7000人以上増えている。今や日本の製造業は高齢者や外国人が主戦力なのである。とはいえ、高齢者もいずれは減る。外国人労働者もいつまで来日するか分からない。

こうした人材確保もさることながら、それ以上に人口減少が深刻な影響を及ぼすのは技術の承継を困難にすることだ。小規模や零細企業ではベテラン社員の熟練の技に頼っているところが少なくなく、そうした技は一朝一夕に身に付くものではない。就業者の世代交代がうまく機能しなければ、熟練の技は消えることとなる。そうなれば企業としての「強み」も消え、経営が行き詰まることにもなりかねない。

熟練の技の消滅は大企業の生産や開発にも波及する。日本の製造業は、幾層もの下請け企業によって成り立っているためだ。下請け企業が熟練の技を失ってしまった場合、代わりは即座には見つからない。

人口減少の影響は製造の現場だけでなく、製品企画開発部門にも及ぶ。製造業の製品企画開発に携わる専門家や技術開発者の中高年齢化は、新しいアイデアを着想する力や社会の新しいニーズを取り込む力を弱め、新技術や新商品を開発する力の衰退を招く方向へと作用しやすくなるからだ。開発の最前線が中高年社員中心でマンネリズムの支配を許す組織文化では、若い開発者が躍動する外国企業に太刀打ちできない。このままでは、ますます革新的なヒット商品が日本から誕生しづらくなる。

2050.jpg
未来の年表 業界大変化 瀬戸際の日本で起きること
 河合雅司[著]
 講談社現代新書
(2022年12月)

累計100万部を突破する『未来の年表』シリーズの最新刊。昨年12月の発売以降、全国各地の書店で新書ランキング1位を獲得。今回の特集記事は同書収録の第1部「人口減少日本のリアル」で扱う16業界より5つを抜粋・再構成しており、同書の第2部では、瀬戸際の日本企業に対する具体的な処方箋を「戦略的に縮むための『未来のトリセツ』(10のステップ)」として提示している。


230207p20_KWI_02.jpg河合雅司(作家・ジャーナリスト)1963年生まれ。中央大学卒業後、産経新聞社入社。同社論説委員などを経て人口減少対策総合研究所理事長。主な著書に『未来の年表』『未来の年表2』『未来の地図帳』『未来のドリル』(いずれも講談社現代新書)がある。


ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EUの炭素国境調整措置、自動車部品や冷蔵庫などに拡

ビジネス

EU、自動車業界の圧力でエンジン車禁止を緩和へ

ワールド

中国、EU産豚肉関税を引き下げ 1年半の調査期間経

ビジネス

英失業率、8─10月は5.1%へ上昇 賃金の伸び鈍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 9
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 10
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中