最新記事

アルツハイマー病

「アミロイド斑に伴う腫れがアルツハイマー病の真の原因」との研究結果

2022年12月23日(金)16時30分
松岡由希子

アルツハイマー病患者の周囲のアミロイド斑 (水色) の腫れは、認知症の症状の原因である可能性がある Yale University

<アミロイド斑に伴う腫れがアルツハイマー病の真の原因である可能性を明らかにした......>

脳内でのアミロイド斑の形成はアルツハイマー病の特徴だ。脳内で生成されるタンパク質の一種「アミロイドベータ」の凝集を抑制する医薬の研究開発がすすめられているが、臨床試験ではまだはっきりとした成果が出ていない。

米イェール大学の研究チームは、アルツハイマー病のモデルマウスを用いて、アミロイド斑に伴う腫れがアルツハイマー病の真の原因である可能性を明らかにした。その研究成果は2022年11月30日付の学術雑誌「ネイチャー」で発表されている。

脳の神経細胞をつなぐ軸索に沿って球状の腫れが蓄積する

これによると、アミロイド斑が形成されるごとに、アミロイド斑の近くで、脳の神経細胞をつなぐ軸索に沿って球状の腫れが蓄積する。この腫れは、細胞内の老廃物を消化・分解する細胞小器官「リソソーム」が徐々に蓄積することによって引き起こされるものだ。

研究チームは、「カルシウム・膜電位イメージング」でアルツハイマー病のモデルマウスの細胞を計測し、軸索の電気的伝導が重度に破壊されていることも示した。研究論文の責任著者でイェール大学のハイメ・グラツェンドラー教授は「腫れが神経軸索や相互接続するニューロンでの活動を破壊しているおそれがある」と指摘。腫れによって、記憶の形成や定着に不可欠な電気信号を伝達する能力が破壊されると考えられている。

蓄積したリソソームには、タンパク質の一種「PLD3」が多く含まれていることもわかった。「PLD3」によってリソソームが肥大して軸索に沿って蓄積し、やがて軸索の腫れを引き起こし、電気的伝導を破壊する。

遺伝子治療で軸索の腫れは劇的に減少した

また、アルツハイマー病に似た症状のあるマウスの神経細胞から「PLD3」を除去する遺伝子治療を行ったところ、軸索の腫れは劇的に減少し、軸索の電気的伝導が正常になり、軸索でつながる脳領域の神経細胞の機能が改善した。

このことから、研究チームは「『PLD3』がアルツハイマー病のリスクを診断するバイオマーカーとなったり、将来の治療法での標的になりうる」と考察する。グラツェンドラー教授は「『PLD3』やリソソームを制御する他の分子を標的にすることで、軸索の電気的伝導の破壊を避けられるかもしれない」と述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中