最新記事

中国

中国「ゼロコロナ」に終止符──壊滅的な被害へのシナリオ

Xi’s Risky Choice

2022年12月13日(火)12時20分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌副編集長)
中国の保険当局者

厳格なコロナ封じ込め策は市民にも保健当局者にも無理を強いてきた(12月6日、北京) KEVIN FRAYER/GETTY IMAGES

<ついに緩和策へと舵を切った習近平体制を待つ、猛烈な感染拡大と民主主義の味を知った市民>

中国国務院は12月7日、新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」政策に、事実上の終止符を打つ措置を発表した。

ここ3年ほど中国の日常生活を支配してきた健康管理アプリの提示は、ほとんどの公共施設で不要になった。集団検査は縮小され、濃厚接触者の隔離は不要になり、マンションや区画全体を封鎖するような集団隔離は個別の自宅療養に変更された。

これは中国の新型コロナ対策が、封じ込めから緩和へと転換したことを意味する。

保健当局は、新型コロナの感染症分類を、最も重篤な甲類(腸チフスなど)から、乙類(エイズなど)に引き下げた。今まではパニック買い防止のため、風邪薬やインフルエンザ薬の販売に規制がかかっていたが、通常に戻された。

その一方で、新しいルールにはかなり例外もある。学校や老人ホームや医療施設は、引き続き来訪者にPCR検査の陰性証明を求めることができる。高リスク地区は依然としてロックダウン(都市封鎖)の対象になり得る。

一方、ほとんどの検査センターが閉鎖されたため、PCR検査を必要とする人が行き場を失う可能性も出てきた(実際、12月初めの首都・北京でこの問題が生じた)。地方政府が従来の態勢を変更するのに手間取る可能性もある。

中国指導部はなぜ、ゼロコロナ政策の転換を決めたのか。明確な説明はないが、新疆ウイグル自治区の区都ウルムチで、厳しいコロナ対策のためにマンション火災の犠牲者が膨らんだことを発端とする抗議行動が影響を与えているのは間違いないだろう。実際、政府が発表した新たな措置には、非常口を塞ぐことが明示的に禁止されている。

だが、この事件が起きる前から、中国共産党は感染者の増加と、ゼロコロナ政策が経済に与えるダメージの間で板挟みになっていた。ウルムチの火災以降の全国的な抗議行動は、党がゼロコロナ政策の廃止に踏み切る最後の一押しになったのだろう。

爆発的な感染拡大は必至

感染対策を緩めれば、感染が拡大することは避けられない。ただ、治療に関しては世界の国々の経験から学べるし、中国人の大半はワクチンを接種している(ブースター接種率は40%)から、コロナ禍が始まった当初よりは感染拡大への対応力は高まっている。

それにオミクロン株は、過去の変異株と比べて致死率が大幅に低い。中国国営メディアや医療当局はこの2週間、オミクロンを「インフルエンザのような」ものと表現して、大衆を安心させようとしてきた。習近平(シー・チンピン)国家主席自身も、同様の発言をしているらしい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

半導体への関税率、EUに「劣後しないこと」を今回の

ワールド

米政権、ハーバード大の特許権没収も 義務違反と主張

ビジネス

中国CPI、7月は前年比横ばい PPI予想より大幅

ワールド

米ロ首脳、15日にアラスカで会談 ウクライナ戦争終
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 2
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何か?...「うつ病」との関係から予防策まで
  • 3
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トップ5に入っている国はどこ?
  • 4
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 5
    輸入医薬品に250%関税――狙いは薬価「引き下げ」と中…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    伝説的バンドKISSのジーン・シモンズ...75歳の彼の意…
  • 8
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 9
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 10
    今を時めく「韓国エンタメ」、その未来は実は暗い...…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 9
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中