最新記事

地球

偶然? メカニズムあり? 地球の気候が長期的には安定状態を幾度も取り戻してきた理由とは

2022年12月9日(金)16時45分
青葉やまと

マサチューセッツ工科大学 (MIT) の研究では、地球には「安定化フィードバック」メカニズムがあるという...... Elen11-iStock

<太古の昔から、二酸化炭素を封じ込める天然のメカニズムが機能してきたという>

地球温暖化など気候変動への対応が叫ばれる昨今だが、地球は元来、ある程度の気候の変化を乗り越えるしくみを備えているようだ。米マサチューセッツ工科大学(MIT)のチームが、地球は自らを安定化させる機構を備えているとする研究成果を発表した。

研究チームはMITによるプレスリリースを通じ、「地球の気候は、地球規模の火山活動から惑星全体が冷え込む氷河期、そして太陽の放射エネルギーの変化に至るまで、いくつかの大規模な変化を経験してきました」と述べている。

歴史的に見れば、現在人間社会が排出している温暖化ガス以外にも、気候変動の要因はいくつも存在してきたとの説明だ。チームはまた、「そして37億年の時を超えてなお、生命は脈動を続けています」とも述べ、生物たちが数々の変化を乗り越えてきたと指摘する。

こうした灼熱の時代から極寒の時代までを経て、長期的に見れば地球の気候は安定状態を幾度も取り戻してきた。チームが科学ジャーナル『サイエンス・アドバンシズ』上で発表した論文によると、地球には「安定化フィードバック」と呼ばれるしくみが存在し、これが一定の状態に気候を落ち着かせているのだという。

岩石の風化によって二酸化炭素が固着

同論文によると、安定化フィードバックの具体的なしくみは、ケイ酸塩岩と呼ばれる岩の風化によってもたらされるようだ。

ケイ酸塩は、洗濯洗剤や食器用洗剤などにも配合される身近な化学物質だ。二酸化ケイ素とともに、地殻の主要な構成要素にもなっている。

このケイ酸塩を主成分とするケイ酸塩岩は、風化の過程で二酸化炭素を固着する性質がある。大気中の二酸化炭素を固形物に取り込み、海洋堆積物として水中深くに沈殿することで、大気中の二酸化炭素濃度を下げるのだという。大気中の二酸化炭素濃度が高いほど固着が起こりやすいため、温暖化が自然と抑制される。

これまでにも、同作用が温暖化抑制に貢献しているのではないかとする議論はあった。しかし、継続的な安定効果をもたらしていると裏付けるデータは存在せず、安定化フィードバックは証明されてこなかった。

研究チームは今回、過去の気候を研究する古気候学の分野のデータを参照し、6600万年分の気温を解析した。すると、数十万年の周期で気温の変動が抑制されるというパターンを発見できたという。この周期は、ケイ酸塩の風化が気候に作用するまでの時間とほぼ一致する。

地球はより長期的な危機を「運」で乗り切ってきた

科学ニュースサイトのサイテック・デイリーは、「この安定化フィードバックにより、過去の地質学において、気候上の劇的な変動を経て地球がなぜ居住可能な状態に維持されてきたのかを説明することができる」と評価している。

ただし、この仮説は数十万年スケールの気候変動には当てはまるものの、それより長期的な周期での変動を抑制する効果は得られないようだ。

では、より長期的なサイクルでの変動をなぜ乗り越えることができたのかというと、そこには偶然が大きく作用していると考えられている。

論文共著者であるMITのダニエル・ロスマン教授(地球物理学)は、サイテック・デイリーに対し、「2つの見解があります」と説明している。地球の気候は偶然一定に保たれてきたのだと考える学者たちがいる一方、他方は安定化フィードバックの存在が欠かせなかったと考えているという。

ロスマン教授としては、その両方が必要だったとの立場だ。数十万年スケールで安定化フィードバックが機能してきたうえで、より長期的な危機の回避については「純粋な運もおそらくは一役買っていたでしょう」と教授は話している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

マクロスコープ:防衛予算2%目標、今年度「達成」か

ワールド

韓国大統領、大胆な財政出動の重要性を強調

ワールド

カリフォルニア州の花火施設で爆発、7人行方不明 原

ワールド

豪、米から超音速ミサイル購入へ 国防支出へのコミッ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索隊が発見した「衝撃の痕跡」
  • 3
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 4
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 5
    米軍が「米本土への前例なき脅威」と呼ぶ中国「ロケ…
  • 6
    熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しない…
  • 7
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 10
    「22歳のド素人」がテロ対策トップに...アメリカが「…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中