最新記事

医療

父に見つかった癌に勇気をもらった私──自分の癌リスクを知るとは?

We Have the Cancer Gene

2022年10月18日(火)14時33分
ショシャナ・アンガーライダー(サンフランシスコの内科医)
SHOSHANA UNGERLEIDER

2016年の結婚式の際に父親と一緒に踊る筆者 DR. SHOSHANA UNGERLEIDER

<BRCA遺伝子の変異が影響を及ぼすのは乳癌と子宮癌だけではない。そのことを医師でも知らない人が多い。父がステージ4の膵臓癌と診断されたことをきっかけに学んで受けた、遺伝子診断とは?>

6月後半のある日、父から電話がかかってきた。「悪い知らせがある」と、父は切り出した。「数カ月前からおなかに痛みを感じていて、病院で調べてもらうと、膵臓に腫瘤があると言われたんだ」

私の職業は内科医。これは深刻な状況だと、すぐ分かった。父の母親(つまり私の祖母)は、70代前半に膵臓癌で世を去っている。父の父親と兄弟の1人も、50代前半で食道癌により死亡した。

73歳の父と一緒に腫瘍内科を受診したところ、父がステージ4の膵臓癌で、肝臓にも転移していると言われた。そのあと医師が述べた言葉に、私は衝撃を受けた。

一般に膵臓癌の予後は悪いと言われるが、医師によると、ステージが進行した膵臓癌患者の中には、「PARP阻害薬」という新しい薬を用いることにより、3~5年、さらには10年生存する人もいるとのことだった。

医師は、父が遺伝子検査を受けることを勧めた。BRCA遺伝子の変異が確認されれば、この薬を使用できるとのことだった。

私たちは、誰もがBRCA1とBRCA2という遺伝子を持っている。これは、癌の発生を抑制する働きを持った遺伝子だ。このどちらかが変異を起こしていれば、その人は癌になりやすくなる。

この遺伝子変異がある人は400人に1人と言われるが、アシュケナージ系(東欧系)ユダヤ人の場合は40人に1人の割合に達するとされる。私たちの家系はそのアシュケナージ系ユダヤ人だ。

医師である私は、BRCA遺伝子のことは知っていた。けれども、自分とは関係のない話だと思っていた。BRCA遺伝子の変異が関係して発症するのは乳癌と子宮癌だというイメージを持っていて、私の家族に乳癌や子宮癌の患者はいなかったからだ。

その日、父の膵臓癌にBRCA遺伝子が関係している可能性があると言われたとき、私は背筋が寒くなった。私の一族をさいなんできた癌の歴史が私の未来にも暗い影を落とす可能性があると気付いたのだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ政権、零細事業者への関税適用免除を否定 大

ビジネス

加藤財務相、為替はベセント米財務長官との間で協議 

ワールド

トランプ米大統領、2日に26年度予算公表=ホワイト

ビジネス

米シティ、ライトハイザー元通商代表をシニアアドバイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中