最新記事

ウクライナ戦争

ロシアの戦闘能力にダメージを与える制裁「輸出管理」とは何か

STRANGLING RUSSIA

2022年10月12日(水)16時10分
マリア・シャジナ(英国際戦略研究所研究員)
戦車

輸出管理がロシアの防衛産業にダメージを与え、戦争継続が困難に? MAXIM SHEMETOV-REUTERS

<冷戦時代のココムを彷彿させる体制が構築された。金融制裁に比べあまり話題になっていないが、じわじわと効果を発し、ロシアの戦争継続を困難にするだろう>

ロシアのウクライナ侵攻を受け、欧米諸国はロシアに対して前例のない経済制裁を科している。このうち資産凍結やロシアの航空会社の乗り入れ禁止、そして金融制裁の影響については多くが語られているが、輸出管理はあまり話題になっていない。

アメリカをはじめとする世界38カ国は、ロシアに対する斬新かつ複雑な輸出管理体制を構築してきた。その高度に足並みのそろった体制は、かつてソ連を孤立させ、封じ込め、究極的には崩壊させる助けになった輸出管理を思い起こさせる。

経済制裁と輸出管理は一緒くたにされることが多いが、その仕組みは大きく異なる。

経済制裁は貿易や金融取引をほぼ即座にストップさせる一方、輸出管理は対象国が原材料や技術にアクセスするのを制限する。即時的な効果はないものの、半導体や航空機部品など戦略的ハイテク製品の輸出が規制されれば、ロシアの防衛産業がダメージを受け、戦争の継続が困難になってくるだろう。

もちろん、輸出管理が技術移転を完全に阻止できたことはほぼないし、対象国が他の方法(内製化や第三国を経由した制裁回避、あるいは輸出管理を破る欧米企業の支援など)で穴を埋めるのを永遠に阻止することはできない。

だが、欧米諸国は冷戦時代に、ココム(対共産圏輸出調整委員会)などを通じて、ソ連をはじめとする共産圏諸国に戦略的技術が渡るのを阻止した長い経験がある。冷戦後もロシアに対しては一定の輸出管理がなされてきたが、あくまで限定的で、さほど徹底されてもいなかった。

だが今、ロシアに対する輸出管理は、冷戦期以来の包括的なものになっている。

アメリカの技術を使って外国で製造された製品をロシアへ再輸出することも禁止された。これまでこの「外国直接製品規制」が発動されたのは中国の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)だけで、国に対して適用されたことはない。

さらに、米商務省が作成する事実上の禁輸措置対象リスト(エンティティー・リスト)に、ロシアン・テクノロジーズ(ロステック)や航空機で知られるスホイなど、ロシア関連企業100以上が追加された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン核施設の損害深刻、立て直しには数年要する=C

ビジネス

NY外為市場=ドル、対ユーロで2021年来の安値 

ワールド

米とイラン、核施設の被害規模巡る見解に相違=ロシア

ワールド

仏大統領がイスラエル首相と電話会談、イラン停戦合意
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 5
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 6
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 7
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 10
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 8
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中