最新記事

軍事支援

「汚職大国」ウクライナに供与された支援金と武器、無駄遣いで「消失」する危険

ARMING UKRAINE

2022年9月29日(木)18時12分
トム・オコナー(米国版シニアライター)

カリテンコによるとウクライナの評価は、信頼に足る9つの国際機関が実施した調査結果に基づいており、前年よりも評価は下がったという。これはウクライナの「政府機関に腐敗を取り締まる常任の管理職が長年存在しなかったため、腐敗追放システムに対するプレッシャーが高まっている」からだ。

「腐敗取締特別検察庁(SAPO)の長官選びは1年以上かかった」とカリテンコは言う。「資産回収管理局(ARMA)のトップ選びも、前任者の更迭から2年近くたってようやく始まった」

問題はさらに2つある。司法改革に着手するための法的枠組みが採択されたのに、改革の実施が遅れていることと、いくつかの腐敗問題の徹底的な解決に寄与するはずの『反腐敗戦略』の議会での採択が遅れたことだ。

ロシアとの戦争も重荷だ。「戦争が続いているのに、腐敗撲滅に向けた改革を目覚ましく前進させることができると期待するのは非現実的だが」とカリテンコは言う。「今すぐにでも取り組まなければならない課題がある」

SAPOの長官は7月に任命されたばかりだし、ARMAと国家反汚職局(NABU)の責任者は選考中だ。トップの不在はウクライナにとって弱点だ。「各組織が独立性や、権限の基礎となる法的枠組みについて課題を抱えているならなおさらだ」とカリテンコは言う。

装備の横流しを防ぐ手だてはない

トップ人事の遅れは組織の効率性にも悪影響を与える。既に長官が任命されたSAPOでも「独立性を強化し、トップの権限を拡大し、不当な介入を受けるリスクを最小化しなければならない状況は残っている」。

航空防衛産業のコンサルティング会社スティーブン・マイヤーズ&アソシエイツの創業者で、米国務省の国際経済政策諮問委員会を務めた経験もあるスティーブン・マイヤーズも、ウクライナ支援の透明性の欠如を心配する1人だ。

「ウクライナには、支援の分配に関して説明責任を果たすための効果的な仕組みがない」とマイヤーズは本誌に語った。「懸念すべき状況なのは間違いない」

マイヤーズに言わせれば、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領率いる現政権も含む、ウクライナの過去20年間の歴代政権は腐敗の大きな問題を抱えてきた。賄賂などの違法なカネの流れが生まれがちなだけではない。「さらに深刻なのは支援を受けた軍備品や武器に関わる問題だ」と彼は言う。「戦地の指揮官が装備の一部をロシア人や中国人、イラン人といった買い手に横流しするのを防ぐ手だてがほぼない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪中銀、予想通り政策金利据え置き 追加緩和に慎重

ワールド

豪中銀、コアインフレ率は26年後半まで目標上回ると

ワールド

中国副首相、香港と本土の金融関係強化に期待

ワールド

高市首相、来夏に成長戦略策定へ 「危機管理投資」が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中