最新記事

ウクライナ戦争

サイバー攻撃で「ロシア圧勝」のはずが...人類初のハイブリッド戦争はなぜ大失敗した?

A WAR OF CYBER SUPERPOWERS

2022年9月22日(木)17時40分
山田敏弘(国際情勢アナリスト)

220927p18_YDH_08.jpg

ウクライナのゼレンスキー大統領の側近であるフェドロフ副首相(下)はウクライナIT軍の創設を宣言 GLEB GARANICHーREUTERS

220927p18_YDH_07.jpg

ZUMA PRESS/AFLO

ウクライナ独自のサイバー「攻撃」

さらにウクライナは、ロシアに対して独自のサイバー攻撃も仕掛けている。ウクライナでは侵攻から数日後となる2月27日に、ゼレンスキー大統領の側近のミハイロ・フェドロフ副首相が、ウクライナIT軍を立ち上げると宣言。世界中にいるウクライナ支持のエンジニアなどにロシアを攻撃するサイバー戦に参戦するよう呼び掛けた。

無料通信アプリのテレグラムに公式アカウントを設置し、最大で30万人(現在は23万人ほど)が登録した。ロシア国内の標的として政府機関や民間企業などのコンピューターやネットワークの情報を毎日何度か掲載し、ロシアへのさまざまなサイバー攻撃を「協力者」たちに促してきた。

さらに、ハッカーの集合体として知られるアノニマスが、ウクライナ支持を表明し、DDoS攻撃や情報搾取、ホームページの改ざんなどロシアへの攻撃を続けている。例えば3月には、ロシアがプロパガンダを流している国営放送をネット視聴できるサービスをハッキングし、国営テレビ「ロシア1」で反プーチン的なメッセージを放送した。

ほかにも、民間から50近いハッキング集団がロシア攻撃に参加したのが確認されている。なかには、アプリをダウンロードすれば誰でもロシアへのDDoS攻撃を実行できるウェブサイトを提供する組織もある。

こうした「ボランティア」活動に加え、ウクライナ政府として攻撃は行っていないのか。実は、ウクライナには政府として機能的に活動するサイバー組織は存在していない。

サイバーセキュリティー専門家であるSSSCIPのゾーラ副局長は、「われわれはこれまで、政治的な目的を達成するために他国をサイバー攻撃したことは一度たりともなく、そういう政策もなかったためサイバー部隊を持つ必要はなかった」と語る。ウクライナIT軍も、あくまでボランティア活動という位置付けだった。

しかしロシアの侵攻が長期化するにつれ、その姿勢も変わった。ウクライナIT軍など数多くの民間ボランティアがウクライナ政府に協力を始めるなかで、「今、多くの能力あるエンジニアなどはボランティアからSSSCIPのチームに加わっている。積極的なサイバー防衛も行っている」と、ゾーラは言う。「積極的なサイバー防衛」とは、自分たちを守る目的で先手を打って攻撃を行うことを意味する。つまり、攻撃的なサイバー工作である。

もっとも、ゾーラの話はあくまで政府の「公式」なコメントにすぎない。実際には、目に見えないところで、ウクライナは攻撃的なサイバー作戦を行っている──。そう指摘するのは、ウクライナやロシアの軍や情報機関のサイバー戦略の内情に精通する米サイバーセキュリティー専門家のジェフリー・カーだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス銀行資本規制、国内銀に不利とは言えずとバーゼ

ワールド

トランプ氏、公共放送・ラジオ資金削減へ大統領令 偏

ワールド

インド製造業PMI、4月改定値は10カ月ぶり高水準

ビジネス

三菱商事、今期26%減益見込む LNGの価格下落な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 8
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中