最新記事

黒海艦隊

黒海艦隊がクリミアからロシアに「退避」、ハイマースの餌食避ける

Putin Forced to Move Submarines From Crimea After Ukrainian Attacks: U.K.

2022年9月22日(木)00時35分
イザベル・ファン・ブリューゲン

クリミア半島の軍港セバストポリで浮上したロシアの最新式のキロ級潜水艦(7月26日)  Alexey Pavlishak-REUTERS

<クリミア半島の奥深くまで及んできたウクライナ軍の長距離攻撃に恐れをなして、ウクライナの海岸に近づくこともできない黒海艦隊は、もはや「役立たずだ」と専門家>

英国防省の報告によれば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、クリミア半島を拠点としてきた黒海艦隊をロシア南部に移動せざるをえなくなっている。

英国防省は、毎日更新しているウクライナ戦争の情勢分析で、ウクライナ軍がクリミア半島の奥深くまで攻撃してきたことを受け、ロシアの黒海艦隊司令部が「キロ型潜水艦」を母港のセバストポリから、ロシア南部のノボロシースクに移動させているのはほぼ確実だ、と述べている。

「ウクライナ軍の長距離攻撃能力が向上し、(黒海艦隊にとっての)安全保障上の脅威レベルが変化したためだと見られる」

黒海艦隊を脅かしたウクライナ軍のクリミア攻撃の具体例として、英国防省は、この2カ月間に起きた黒海艦隊本部および主要な海軍飛行場への攻撃に言及している。

侵攻前は黒海の支配者だった

プーチンが2014年にクリミア半島を併合した「動機」の一つは黒海艦隊にとって安全な拠点を確保することだったが、せっかく手に入れたその拠点は失われつつある可能性が高い、と英国防省は分析する。

英国防省によるこの評価は、元米欧州軍司令官のベン・ホッジスの発言を受けたものだ。ホッジスは9月19日に公開された動画で、ロシア軍はウクライナの陸海で苦戦しており、黒海艦隊は「全く役立たず」になっていると述べた。

黒海艦隊の惨状を見る

プーチンのウクライナ侵攻以前には、黒海艦隊は「基本的に黒海全体を支配していた」と、ホッジスは言う。「だがこの半年間で、ロシア海軍もロシア陸軍と弱さでが変わらないという現実をわれわれは目の当たりにしてきた」

ホッジスは、7億5000万ドルの価値があると推定される黒海艦隊の旗艦「モスクワ」の沈没に加えて、黒海で撃沈した複数のロシア艦船に言及した。

黒海艦隊は「ウクライナの海岸に近づくことを恐れ」、クリミア半島の陰に身を隠している、とホッジスは述べている。

「黒海艦隊は、潜水艦を除けば、全く役に立っていないと思う。戦いに参加していない」とホッジスは続ける。「ウクライナ軍はクリミアに迫っており、セバストポリも間もなくハイマース(高軌道ロケット砲システム)など長距離砲の射程に入る。そうなれば、黒海艦隊は手も足も出ない」

ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は8月、ロシアに奪われた領土を奪還するための大規模な反撃の一環として、クリミア半島を取り戻すと宣言していた。

(翻訳:ガリレオ)


ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米中小企業、26年業績改善に楽観的 74%が増収見

ビジネス

米エヌビディア、株価7%変動も 決算発表に市場注目

ビジネス

インフレ・雇用両面に圧力、今後の指標に方向性期待=

ビジネス

米製造業新規受注、8月は前月比1.4%増 予想と一
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中