最新記事

宇宙

「ダイヤモンドの雨」は、無数の惑星で見られる現象だった

2022年9月8日(木)19時30分
松岡由希子

「ダイヤモンドの雨」は、珍しい現象ではないのかもしれない...... Greg Stewart/SLAC National Accelerator Laboratory)

<研究チームは、氷惑星の内部で「ダイヤモンドの雨が降る」現象を再現することを試みた......>

海王星や天王星といった巨大氷惑星の内部は、主に水、メタン、アンモニアの高密度な混合流体で構成され、摂氏数千度の高温かつ地球大気の数百万倍もの高圧な極限状態となっている。これまでの仮説では、このような高温と高圧によって水素と炭素がダイヤモンドに変化し、「ダイヤモンドの雨」のように、地下1万メートルにある岩石状の核へと深く沈み込んでいるのではないかと考えられてきた。

「ナノダイヤモンド」が生成される過程をとらえることに成功

独ドレスデン・ロッセンドルフ研究所、独ロストック大学、米SLAC国立加速器研究所らの研究チームは、氷惑星の内部で「ダイヤモンドの雨が降る」現象を再現しようと、炭素、水素、酸素で構成されるポリエチレンテレフタレート(PET)の薄膜に高出力レーザーを照射してこれに衝撃波を発生させ、内部の様子を観察した。

2022_0506_LCLS_MEC.jpg

海王星と天王星で見られる極限状態を再現し、ダイヤモンドの雨の形成を観察した(Olivier Bonin/SLAC 国立加速器研究所)


それによりダイヤモンドの結晶構造を有するナノ粒子「ナノダイヤモンド」が生成される過程をとらえることに成功した。その研究成果は2022年9月2日、学術雑誌「サイエンスアドバンシズ」で公開されている。

この実験では、PETの原子が小さなダイヤモンド領域に再配列していく様子をとらえるとともに、ダイヤモンド領域が最大で幅2~3ナノメートルまで成長することを明らかにした。また、PETに酸素が存在することで、これまでの観測よりも低い圧力と温度でナノダイヤモンドが成長することもわかった。

研究論文の責任著者でロストック大学の物理学者ドミニク・クラウス教授は「酸素が炭素と水素の分解を速め、ナノダイヤモンドの形成を促した」とし、「これはすなわち、炭素原子がより簡単に結合して、ダイヤモンドを形成しうることを意味している」と解説している。

「ダイヤモンドの雨が降る」現象は無数の氷惑星でも

今回の実験結果は、「氷惑星でダイヤモンドの雨が降っている」というこれまでの仮説を裏付けるものだ。かつて氷惑星は稀有だとみられていたが、現在では太陽系外惑星で最もよくみられる形態であることがわかっている。おそらく、「ダイヤモンドの雨が降る」現象は海王星や天王星のみにとどまらず、銀河系に存在する他の無数の氷惑星でも起こっているだろう。

また、この実験結果は、ナノダイヤモンドの新たな製造方法として応用できる可能性も示している。ナノダイヤモンドはすでに研磨剤などに含まれているが、将来的には、量子センサーや医療用造影剤、再生可能エネルギー向け反応促進剤など、様々な領域で幅広い活用が見込まれている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

香港の大規模住宅火災、ほぼ鎮圧 依然多くの不明者

ビジネス

英財務相、増税巡る批判に反論 野党は福祉支出拡大を

ビジネス

中国の安踏体育と李寧、プーマ買収検討 合意困難か=

ビジネス

ユーロ圏10月銀行融資、企業向けは伸び横ばい 家計
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中