最新記事

統一教会

【寄稿:有田芳生】全国から91人の女性信者が旅館に集められ... 統一教会「政治秘書養成」秘録

A TAINTED TRAJECTORY

2022年9月14日(水)10時05分
有田芳生(ジャーナリスト、前参議院議員)

統一教会信者たちが反社会的な霊感商法を行っていることが明らかになり、多くの自民党国会議員が、表面的に教団と距離を置いている時期だった。

このときの安倍の言葉が事実だったかどうかは分からない。ある教団幹部にこの話をすると「批判してきた有田さんに本当のことは言わないですよ」とも言われた。

安倍は自民党総裁として、第2次安倍政権で第1次政権の挫折を克服したかった。そのため、社会問題を起こしている旧統一教会であっても、選挙で勝つためその組織票を利用したのだろう。

安倍と親しかった自民党幹部は、私にこう証言した。「安倍さんと統一教会との関係はずっと続いていました。一時的に距離を置いたのは、霊感商法などで社会とのトラブルがあったからです」。安倍がこれまで選挙時に教団の票を自民党の北村経夫、宮島喜文、井上義行各議員に配分していたことは、関係者の証言で明らかになっている。

また、2021年9月12日に行われた教団の関連団体、天宙平和連合(UPF、文教祖の妻である韓鶴子〔ハン・ハクチャ〕が総裁)の集会には、安倍元首相がビデオメッセージを送っている。自身の判断に基づき、旧統一教会(現在の総裁は韓鶴子)と密接不離の関係にある団体の催しで、韓総裁を絶賛したのだ。

安倍暗殺事件の実行犯は、今春になりこのビデオを見て、信者の母親の高額献金などで家庭を破壊された私怨の矛先を、警備が厳重でコロナ禍にあって訪日が難しい韓鶴子から安倍に変更したと供述している。

「家庭」の重要性を強調していた自民党による「政治の力」で旧統一教会が日本社会で温存され、自分の人生と家族が破壊されたため、安倍を襲えば元凶である旧統一教会組織が打撃を受けると判断したのだった。

事件の背景は2つある。1つは旧統一教会による信者に対する過剰な献金強要が続いてきたことだ。容疑者の家庭だけではない。多くの信者が自己破産などで家庭を破壊されてきた。

もう1つは自民党を中心とした政治が、それを問題とすることなく、結果的に守ってきたことだ。オウム真理教の後に統一教会を捜査の対象としていた警察庁や警視庁が、なぜ摘発に動かなかったのか。私は警視庁幹部から「政治の力」が働いたと聞いている。

宗教法人法で守られた旧統一教会に徹底した捜査の手が入っていれば、この暗殺事件はなかったかもしれない。日本史に残る重大問題の解明は、いまだ緒に就いたところである。

旧統一教会は戦後日本政治において、自民党を中心とする保守政治家にどこまで浸透していたのか。そして政策決定過程にも影響を与えてきたのか。警察当局が新右翼とともに捜査対象としてきた朝日新聞襲撃などの「赤報隊事件」(2003年に時効)と関係はなかったのか。

「政治と宗教」一般ではない。「政治と旧統一教会」の関係に鋭いメスを入れるのは、歴史の闇の解明も含んだ日本の戦後史の重要な課題なのである。
magSR202209taintedtrajectory-book.jpg


■お知らせ
統一教会と政治の関係はどのように変貌したのか。組織の実態や保守政治勢力との結びつきに鋭く斬りこんだ有田芳生氏の労作『統一教会とは何か――追いこまれた原理運動』(教育史料出版会、1992年)に、新たな書き下ろしを加えた『改訂新版 統一教会とは何か』が大月書店より緊急出版されます。9月21日発売。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スウェーデン、ウクライナに戦闘機「グリペン」輸出へ

ワールド

イスラエル首相、ガザでのトルコ治安部隊関与に反対示

ビジネス

メタ、AI部門で約600人削減を計画=報道

ワールド

イスラエル議会、ヨルダン川西岸併合に向けた法案を承
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 6
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    やっぱり王様になりたい!ホワイトハウスの一部を破…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 9
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 10
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中