最新記事

「伝説は本当だった!」10万平方キロの「白く光る海」が衛星写真で捉えられる

2022年9月12日(月)16時30分
青葉やまと(Pen Onlineより転載)

映画「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」でも印象的なシーンがあった...... 「Life Of Pi 4K HDR | Whale Scene-YouTube

<長らく伝説と思われてきた「乳白色に光る海」がカメラに納められ、衛星写真にも捉えられた......>

海洋探検家のあいだでは過去100年以上にわたり、ある伝説が囁かれてきた。深夜の航海中、「乳白色に光る海」を目撃したという話だ。長らく伝説と思われてきた現象だが、実際に白く光る海の様子が実際にカメラに収められたことで、言い伝えは本当だったことが明らかになった。

白い海が目撃されたのは、インドネシアのジャワ島南部だ。ある夏の深夜、大型ヨットのガネーシャ号が近海を航行していたところ、船員たちが漆黒の海にあって白く発光する水面を目撃した。

船員たちはその模様をスマホで撮影し、さらにアクションカメラのGoProでもとらえることに成功している。真夜中の海上だけあって映像はかなり粗いものだが、水平線より下をうっすらと乳白色に光る海が満たしている様子を確認できる。

映像には真っ暗な船のデッキも映り込んでおり、これと比較すると相当な明るさだ。英デイリー・メール紙によると、目撃した船員のひとりはインタビューに応じ、「ガネーシャ号がこの光る水域に入ると、海全体が夜空よりもかなり明るくなりました。ほぼ均一で安定した光が水平線まで続いていました」と当時の体験を振り返っている。

10万平方キロで発光し、45夜も続いていた

ガネーシャ号が光る海に遭遇したのは、2019年8月のことだ。その後2021年夏になって、この現象を説明する論文が科学誌『サイエンティフィック・リポーツ』に掲載された。今年7月に入って英ガーディアン紙などが論文を取り上げたことで、注目を集めている。

論文の筆頭著者は、この現象を長く研究している米コロラド大学のスティーヴン・ミラー教授(大気化学)だ。教授は当時の海域の様子を収めた衛星写真を入手し、発光現象が約10万平方キロの海域に及んでいたことを突き止めた。海は少なくとも45夜にわたり、白く輝き続けていたという。

不思議な発光現象についてミラー教授は、海面を漂う発光性のバクテリアによるものだと解説している。大気の状態の変化を受けて潮の流れが変わる際、バクテリア同士がコミュニケーションを取る手段とし発光している可能性があるという。

化学的には、バクテリアがもつルシフェリンという化学物質が酸素と反応することで光を発するようだ。ルシフェリンはバクテリアだけでなく、ホタルや深海魚など発光する生物に広く備わっている。

18世紀の目撃談がついに証明

広い海域で起きている現象ながら、この現象はこれまでさほど多くの船乗りたちに目撃されてこなかった。陸地付近では発生しづらく、現象が発生しているまさにその付近を夜間に航行しなければ目撃できないためだ。

ガネーシャ号の船員はその明るさを、暗いところで光る蓄光シールにも似ていたと表現している。真っ暗な海においては、相当に輝いて感じられたに違いない。

伝承としてしか聞いてこなかった光る海を目撃した船員たちは、驚きもひとしおだったことだろう。英ガーディアン紙は、船員が航海日誌に次のように書き留めていたと報じている。「月はなく、海は明らかにプランクトンで満たされ、だが波は黒かった。まるで雪のうえを航海しているかのようだった。」

乳白色に光る海の目撃談は、古くは18世紀の貿易船の時代にまで遡る。スマホのカメラと衛星写真の力により、伝承が真実であったことがついに確認されたようだ。

【動画】>>■■【画像】発光する海が衛星写真で捕らえらた!■■

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米中首脳会談が終了、関税・レアアースなど協議 対立

ワールド

日中首脳会談を調整中=高市首相

ワールド

日銀、6会合連続で政策金利を据え置き 高田・田村委

ワールド

Azureとマイクロソフト365の障害復旧、一時数
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨の夜の急展開に涙
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理…
  • 6
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 7
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中