最新記事

宇宙

銀河系外で「休眠状態」の恒星質量ブラックホールが発見される

2022年8月8日(月)17時36分
松岡由希子

連星「VFT S243」のイメージ。大マゼラン雲のタランチュラ星雲にあり、太陽の25倍の質量を持つ高温の青い星と、少なくとも太陽の9倍の質量を持つブラックホーで構成されている。(ESO/L. Calcada)

<銀河系(天の川銀河)のすぐ隣にある銀河「大マゼラン雲」で恒星質量ブラックホールが見つかった......>

ヨーロッパ南天天文台(ESO)に設置された超大型望遠鏡VLTの6年にわたる観測により、銀河系(天の川銀河)のすぐ隣にある銀河「大マゼラン雲」で恒星質量ブラックホールが見つかった。その研究成果は2022年7月18日、学術雑誌「ネイチャー・アストロノミー」で発表されている。

「休眠状態」の恒星質量ブラックホール

恒星質量ブラックホールは、大質量の星がその寿命を迎え、自らの重力で崩壊するときに形成される。2つの星が共通の重心の周囲を公転する「連星」では、このプロセスにより、ブラックホールが明るい伴星とともに軌道に残される。この恒星質量ブラックホールは、高レベルのX線を放射していなければ「休眠状態」にあり、周囲とあまり相互作用しないため、とりわけ発見されづらい。

ベルギーのルーヴェン・カトリック大学(KU Leuven)らの国際研究チームは、大マゼラン雲にある「タランチュラ星雲」で約1000個の大質量星を詳しく調べた。天体からの光のスペクトルをもとに連星の軌道の特徴である「ゆらぎ」を探し結果、連星「VFT S243」が見つかった。

「VFTS 243」は、太陽の25倍の質量を持つ高温の青い「O型星」と太陽の9倍以上の質量の見えない伴星で構成される。この伴星は、その質量からブラックホールだとみられている。

「銀河系外で初めて検出された休眠状態の恒星質量ブラックホールだ」

「大マゼラン雲でブラックホールの候補が見つかった」との研究成果は2021年11月にも発表されているが、研究チームは、今回の発見について「銀河系外で初めて明確に検出された休眠状態の恒星質量ブラックホールだ」と主張している。

「VFTS 243」のほぼ円形の軌道と運動特性は、このブラックホールを発生させた星が強力な爆発の兆候なく消滅したことを示唆している。

研究論文の筆頭著者で蘭アムステルダム大学アントン・パンネクーク研究所のトメル・シェナー博士は「『VFTS 243』のブラックホールを形成した星は、爆発の痕跡なく、完全に崩壊したようにみえる」と解説したうえで、「このような『直接崩壊』を示唆する証拠が最近出てきているが、我々の研究成果はおそらく最も直接的なもののひとつであり、宇宙でのブラックホールの合体の起源において大きな意義がある」と述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中