最新記事

気候変動

マヤ文明の首都の崩壊は、長引く干ばつが内戦を煽った可能性がある

2022年8月1日(月)15時51分
松岡由希子

マヤパンの崩壊には、気候変動が関わっていた...... Claudia Luna-iStock

<ユカタン半島で1200年から1450年にかけて先住民族マヤの首都であったマヤパンの崩壊は、長く続いた干ばつが関連している、と研究>

メキシコ湾とカリブ海との間に突き出すユカタン半島で1200年から1450年にかけて先住民族マヤの首都であったマヤパンは、1441年から1461年に政治的対立や内戦が最も激しくなり、完全に崩壊した。この間、干ばつが長く続いていたことも明らかになっている。

長期にわたる気候変動が緊張をもたらし、政治暴力に至った?

米カリフォルニア州サンタバーバラ校の人類学者ダグラス・ケネット教授らの研究チームは、2022年7月19日、オープンアクセスジャーナル「ネイチャーコミュニケーションズ」で「長引く干ばつが内戦を煽り、制度的不安定をもたらし、マヤパンの崩壊を招いた可能性がある」との研究論文を発表した。

研究チームは、まず、酸素同位体記録や放射性炭素データ、人骨のDNA配列などの考古学的・歴史的データをもとに、1400年から1450年までの騒乱期をドキュメント化した。さらに、この地域の気候データとマヤパンの地下にある洞窟の堆積物から得た干ばつの記録とを組み合わせた。

これらのデータを分析したところ、1400年から1450年にかけて内戦が著しく増加し、マヤパンでの紛争と干ばつには相関があった。つまり、干ばつとマヤパンでの紛争という環境下で制度的崩壊が起こったとみられる。

当時は、政治的利害の対立する貴族たちが率いる政治体制のもと、トウモロコシの天水農業に強く依存し、灌漑はごく一部に限られ、穀物を長期に保存できる貯蔵施設もなかった。研究チームは「長期にわたる気候変動による苦難がいら立った緊張をもたらし、やがてマヤパンでの政治暴力に至ったのではないか」と主張している。

「地域レベルで気候変動と社会の安定との複雑な関係を明らかにした」

研究チームは、気候変動に対するレジリエンス(回復力)や社会変容についても考察した。マヤパンが崩壊した後、住民たちはユカタン半島の他のエリアに移住し、人口と社会を再編成して、スペイン人が入植する16世紀初めまで、マヤの政治経済構造を維持したという。

研究論文の筆頭著者であるケネット教授は、一連の研究成果について「地域レベルで気候変動と社会の安定との複雑な関係を明らかにした」と評価し、「とりわけ干ばつが食料不足につながる地域で、内政上の緊張や派閥争いの悪化にもたらす気候変動の影響を評価する際は、自然システムと社会システムの複雑な関係を理解することが重要だ」と説いている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英GDP、第3四半期は前期比+0.1%に鈍化 速報

ワールド

モスクワ南部で自動車爆弾爆発、ロシア軍幹部が死亡=

ビジネス

韓国税務当局、顧客情報流出のクーパンに特別調査=聯

ビジネス

フジ・メディア、村上氏側に株買い増し目的など情報提
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 10
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中