最新記事

動物

飼い犬がロストバゲージに......21時間木箱に詰め込まれ尿まみれ

2022年7月29日(金)13時50分
佐藤太郎

CTV News/YouTube

<この体験は犬の心に傷を残したようだ。「ウィンストンはトラウマを抱えています。当分の間は絶対に犬と旅行することはありません」と、飼い主>

旅行者なら誰もが恐れるロストバゲージ......不運にも被害に遭った時は悲惨だ。行方知れずになった荷物が手元に戻ることはほぼないと覚悟したほうがいい。

そんな災難が生きた動物にも降りかかった。トロント・ピアソン国際空港の片隅で約21時間、持ち主不明の荷物と一緒に放置された犬がいる。

ジェナ・バッツさんはドミニカ共和国のプエルト・プラタ州で3ヶ月を過ごし、現地で見つけた野良犬に一目惚れ。保護して、もともと飼っていたペットの犬と共にカナダに連れ帰ることにした。

ウィンストンと名付けた保護犬と共に、7月2日の午前1時半頃、トロント・ピアソン国際空港に到着した。はずだった。

午前2時頃、空港の荷物受取場に出てきたのは、もとから飼っていたペットだけ。待てど暮らせどウィンストンは出てこない。

しびれを切らしたバッツさんは、近くにいた空港職員に尋ねて回った。職員の回答は驚くべきものだった。「貨物はもう他に何もないと言われたんです」とバッツさん。

時刻は午前3時。税関職員から、もう職員がいないから家に帰ってから航空会社に電話するようにと諭された。

ウィンストンはどこだ?

パッツさんは、怒り心頭だった。「どうして誰も私の犬を探すのを手伝ってくれないのか理解できませんでした」と振り返る。「これは生き物です」

空港を後にしてからバッツさんは、ウィンストンの行方を追った。無事にトロントに着いたのか、それともまだドミニカにいるのか、カナダの航空会社エア・トランザットに連絡を取ろうとした。

それから約21時間後、ついにピアソン空港の税関で木箱に入れられたウィンストンが発見された。ロストバゲージで引き取り手の現れない荷物と共に空港の隅に放置されていたそうだ。

ウィンストンが見つかり胸をなでおろしたパッツさんだったが、ピアソン空港に駆けつけた彼女はショックを受けた。税関職員がウィンストンに水を飲ませようと木箱から出してくれていたそうだが、ウィンストンの身体は尿にまみれていた。

この体験は犬の心に傷を残したようだ。「ウィンストンはトラウマを抱えています。当分の間は絶対に犬と旅行することはありません」

220725-lb-002.jpg

救出されたウィンストンYouTube/CTV News Toronto 

バッツさんによると、ピアソン空港のエアトランジットのサービス提供会社であるGTA dnata社から、この件を謝罪するメールと、お詫びのギフトカードを贈るという連絡を受け取ったという。

一方、運行会社のエア・トランザットからは直接連絡がないと語った。エア・トランザットはCTV News Torontoの取材に対し、この事件の完全な調査を要請しているとコメントした。

空港は深刻な人手不足

バッツさんは、お詫びのしるしとして提案された補償のギフトカードに興味はないと話す。生きた動物の飛行機での取り扱いについて、航空会社がより良い方針を示すよう望んでいる。

「私は未だにとても動揺しています」「自分の言葉をまとめるのは難しい。より良い方針や手順が必要です」

とはいえ、航空会社と空港スタッフの事情も厳しいものがある。

この数週間、ピアソン空港を利用する旅行者から、荷物の紛失や飛行機の遅延・欠航に関する苦情が多く寄せられている。ネットに出回った写真には、荷物受取所に無造作に置かれた何千もの荷物が写っている。

16日前にトロントに到着したが、紛失した荷物をまだ待っている男性もいる。

ピアソン国際空港を運営するグレーター・トロント空港公団は、手荷物に関する問題の原因を、人員不足、フライトの遅延やキャンセル、一時的な機械の故障だと説明している。

ピアソン国際空港はカナダで最も利用者が多く、欧州や南米へのトランジットの要であるが、警備と税関・入国管理の人員不足が深刻で運航の遅延が頻発。受付カウンターには長蛇の列が出現している。空港関係者は、この混乱が秋まで続くことを覚悟しているという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英シュローダー、第1四半期は98億ドル流出 中国合

ビジネス

見通し実現なら利上げ、米関税次第でシナリオは変化=

ビジネス

インタビュー:高付加価値なら米関税を克服可能、農水

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中