ドローンなど備品調達から洗濯まで 補給難のロシア軍を支える国境の町バルイキ
バルイキに近いソロティ村の外れにロシア軍の主要な駐屯地の建設が始まったのは2015年。ロシア政府によるクリミア併合を経て、ドンバス地域の分離独立をめざす親露派を支援する軍事作戦が開始された後だ。
公開されている政府調達文書によれば、300ヘクタールの敷地内には数千人の兵士を収容する兵舎が建設される計画で、契約総額は最大で約5000万ドル(約67億円)に達している。
米国を拠点とするマクサー・テクノロジーズが公表した人工衛星画像では、今年初め、プーチン大統領が2月のウクライナ侵攻を準備する過程で、基地周辺の地域において軍の動きが活発化したことが分かる。
地元住民3人によれば、4月半ば、ウクライナ北部地域からのロシア軍撤退に続いて、多くの部隊や装備がバルイキに流入したという。バルイキ近郊のもっと小規模な基地を捉えた5月の衛星画像には、軍用トラックが集まっている様子や、マクサーが野戦病院と説明する構造物が映っている。いずれも2月の衛星画像には見られなかった。
ロイターが発見した文書によれば、ロシア軍の精鋭である第76親衛空挺師団のパラシュート部隊もこの地域を経由している。ロシア軍が民間人殺害に及んだとされるキエフ郊外ブチャで占領に加わっていた部隊だ。
同部隊の1人、キリル・クリュチコフという人物は4月19日、軍服を着たグループがカフェでビールを飲んでいる動画をインスタグラムに投稿した。ロイターではこのカフェがバルイキにあることを確認した。動画を見た店員は、兵士たちがその頃の顧客であると認めた。同じグループが1週間、ほぼ毎日のように来店していたが、突然来なくなったという。
「うちの店に来ていた兵士が求めていたことは1つだけ。心理的にリラックスすることだ。それを求める理由があったのは明らかだ」とこの店員は言う。クリュチコフさんにコメントを求めたが、反応はなかった。
補給を受ける目的でバルイキに来た兵士もいる。「ラファエル・アリエフ」と名乗る、補給部隊に所属すると自称する兵士は、5月26日にバルイキの地域フォーラムに投稿した書き込みの中で、戦闘中に榴弾の破片で損傷した車両を修理してもらっていると述べている。「やれやれ、ロシア連邦国防省はスペアパーツなど持っていないんだ」と彼は書いている。
ロイターが取材を試みたところ、この兵士は、一般にスペアパーツがすぐに確保できるとは限らず、到着まで1カ月かかることもある、と話してくれた。待ちきれない兵士たちは、ボランティアに頼んで必要な装備を手配してもらうこともあるという。
アリエフさんをはじめとする兵士は、洗濯に関しても地元住民を頼りにしている。バルイキで暮らしているリュボフ・ザツァルスカヤさんは、自宅の洗濯機でウクライナから戻った兵士たちの汚れた衣類を洗っているという。ある軍人が戦友の葬列に参加できるよう、軍服にアイロンをかけてあげたこともあるという。基地の洗濯設備だけでは追いつかない、とザツァルスカヤさんは言う。
ロイターはバルイキへの部隊配備やこの町での兵士の状況、基地建設の費用について、ロシア政府と国防省に問い合わせたが、回答は得られなかった。
不足する装備
ロイターは、メッセージングアプリ「テレグラム」上で、ベルゴロド州で活動するボランティアたちが兵士の装備を確保するための連絡に使っている非公開チャンネルにアクセスする許可をもらった。チャンネルの管理者は、部隊が最も緊急に必要としているという品目のリストを投稿している。通常の小売店で入手可能だが、軍事にも転用できる物品だ。