最新記事

SNS

妊婦に多数の粉ミルク広告 SNS経由激増のカラクリ

2022年5月7日(土)14時38分

レキットベンキーザーは、乳児に最適な栄養に関する不可欠な情報を親に提供し、全ての地域でマーケティングに関する規則を順守しており、こうした各地域の規則はWHOの規範よりも厳しいことが少なくないとしている。

一方、ネスレは2022年末から全世界で6カ月未満の乳児への粉ミルクの販売促進を停止すると発表した。既に163カ国では12カ月未満の乳児用向けの粉ミルクの販促を行っていない。

ただ、ネスレなど一部のメーカーは、独立した「悪質な業者」の行動を管理することは不可能だと主張している。

ネスレの幹部、マリー・シャンタル・メシエ氏は「例えば、中国にいる人がオーストラリアで粉ミルクを買った上で、個人的にインターネット上で売ることは簡単にできる。人々はWHOの規範を知らないことが多いので、われわれがこの問題に関与するのは難しい」と語った。

これに対し、WHOのストローン氏は「この問題に複数の役者が関わっているというメーカーの指摘は正しい」としつつ「メーカーはマーケティング業者に報酬を支払い、誤った情報を拡散するさまざまな団体のスポンサーになっている」と指摘。メーカーの責任を問わないのは、不公平だと反論した。

増えるデジタル広告費

WHOは今回の報告書で、6カ月間にわたり乳児栄養に関する400万件のソーシャルメディア上の投稿データを分析した。これらの投稿は24億7000万人に届き、「いいね」、「シェア」、「コメント」の数は1200万件以上に達した。

WHOの調査対象となった264件の母乳代用品ブランドのアカウントは、1日あたりの投稿数が約90回、投稿を受け取ったユーザー数は2億2900万人に上った。

調査会社・ニールセンによると、乳児用粉ミルク業界がレディット、フェイスブック、インスタグラム、ツイッターに費やした広告費は米国だけで2021年に382万ドルと、17年の約2倍に膨らんだ。昨年の乳児用粉ミルクの販売広告費で、デジタルが他の手法を抑えて最多となった。

ネスレのガーバー・グッドスタートなど乳児用栄養ブランドで20件以上のキャンペーンを手がけたインフルエンサー広告代理店・リンキアの共同創業者、マリア・シプカ氏は「2、3年前は予算の5%未満しかインフルエンサーマーケティングに回っていなかったが、今では25%から50%になりそうだ」と述べた。インフルエンサーによるキャンペーンの真の価値は「プロモーションのにおいがしない」ことだと言う。

しかし、広告の頻度が増加し、母親たちはどんどん母乳育児から遠避けられていると、ソーシャルメディアによる販促に懐疑的な見方もある。

ニューヨークの授乳コンサルタント、レベッカ・フォー氏は「インスタグラムでもフェイスブックでも、私の投稿のいたるところに広告が表れる」と言う。「増えているのに気付いた。当然、怒りやいら立ちを感じる」──。

(Richa Naidu記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・クジラは森林並みに大量の炭素を「除去」していた──米調査
・気候変動による世界初の飢饉が発生か 4年間降雨なく、昆虫で飢えをしのぎ...マダガスカル
・地球はこの20年で、薄暗い星になってきていた──太陽光の反射が低下


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

EUと米、ジョージアのスパイ法案非難 現地では抗議

ビジネス

EXCLUSIVE-グレンコア、英アングロへの買収

ワールド

中国軍機14機が中間線越え、中国軍は「実践上陸訓練

ビジネス

EXCLUSIVE-スイスUBS、資産運用業務見直
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中