最新記事

再生可能エネルギー

「夜間ソーラー発電」が出力実験に成功 ソーラーの逆の原理で電力を生成

2022年5月30日(月)18時50分
青葉やまと

地表面を加熱した太陽のエネルギーは赤外線放射として冷たい夜空に再放出される UNSW

<太陽光で日中に温められた地表は、夜になると冷たい夜空に向けて熱を放出する。このエネルギーを使った発電実験に成功した>

オーストラリアの研究チームが、ソーラーエネルギーを活用した夜間の発電に成功した。これまでとは「逆」の方式だという。

通常のソーラー発電は、太陽から地球に降り注ぐ光を電力に変換する。これに対し夜間ソーラーは、地球から宇宙に放たれるエネルギーを利用する。

地表は日中に太陽光で温められ、夜になると蓄積した熱を赤外線の形で宇宙に向けて放出している。これを発電に用いるというコンセプトだ。

実験を行ったのは、シドニーに位置するニュー・サウス・ウェールズ大学の夜間ソーラー・チームだ。同大学はプレスリリースを通じ、「『夜間』ソーラーパワーにより電力を生成するという、再生可能エネルギーにおける顕著なブレイクスルーを達成した」と発表した。ソーラー発電は日中のみ稼働できるという従来の常識を覆すものとなる。

今回の実験での出力は、ソーラー発電の10万分の1という極めて弱い規模に留まる。しかし研究チームは、今後半導体素子を改善してゆくことで、最終的にはソーラー発電の10分の1ほどにまで出力を高めることができるとみている。

研究の成果は5月、米国化学会誌に掲載された。

既存のソーラーと逆の原理

科学ニュースを報じるニュー・アトラスは、従来と「逆のプロセス」で発電する「奇妙な」発電手法だとして取り上げている。

夜間ソーラーと聞くと、夜空のわずかな明るさを利用した発電かとも思える。しかし、研究者たちは発想を逆転し、地球側からエネルギーを取り出すことにしたという。着目したのは、夜間の温かな地表だ。

地球は日中に太陽から熱を得ているが、これが続くと温度は際限なく上昇してしまう。気温が一定の範囲に保たれているのは、夜間に地表から夜空に対して赤外線を放出し、熱を排出しているためだ。

aoba20220530ss90.jpeg

夜間に再放出された太陽エネルギーを収集するために使用できる熱放射ダイオードから発電を測定しました UNSW


研究チームはこの特性に注目し、こうした夜間の地表からの放射熱を利用し発電することにした。赤外線を検出する暗視スコープに用いられているものと同じ素材を使い、「サーモラジエイティブ・ダイオード(thermoradiative diode)」と呼ばれる半導体素子を独自に開発している。この素子を通じ、赤外線を電力に変換する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

セルビアはロシアとの協力関係の改善望む=ブチッチ大

ワールド

EU気候変動目標の交渉、フランスが首脳レベルへの引

ワールド

米高裁も不法移民送還に違法判断、政権の「敵性外国人

ビジネス

日銀総裁、首相と意見交換 「政府と連絡し為替市場を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中