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「信仰心と誠実さ」の暴走は、なぜ24歳の人妻と幼い娘の惨殺に至った? 実録ドラマ

Faith and Murder

2022年5月27日(金)11時10分
ロクシー・サイモンズ
『アンダー・ザ・バナー・オブ・ヘブン』

敬虔なモルモン教徒の刑事ジェブ( アンドリュー・ガーフィールド)はむごたらしい事件に信仰を試される MICHELLE FAYE/FX

<80年代に米ユタ州で実際に起きた母子殺害事件に迫りつつ、宗教の影響力を掘り下げる『アンダー・ザ・バナー・オブ・ヘブン』>

『アンダー・ザ・バナー・オブ・ヘブン(神の御旗の下に、の意)』は、ありきたりな犯罪実録ドラマではない。

事件が起きて、刑事が捜査に当たる。そこまでは普通だが、さらに信仰とモルモン教原理主義と衝撃的な事件の裏に潜む真実をつぶさに考察しているのだ。

4月に米Huluで配信を開始したミニシリーズは、全7話。1980年代に実際に起きた母子殺害事件に迫る(日本での配信は未定)。

84年、ユタ州ソルトレークシティー近郊の町アメリカン・フォークで、24歳の人妻ブレンダ・ラファティが生後15カ月の娘エリカと共に喉を切り裂かれて殺された。

犯人は夫アレン・ラファティの兄のロンとダンだった。モルモン教原理主義に傾倒する兄弟は動機について、親子を排除せよと「神の啓示」を受けたからだと述べた。

ユタ州はアメリカ発祥のキリスト教系新宗教モルモン教(正式には末日聖徒イエス・キリスト教会)の信者が人口の6割を超える土地柄。加害者も被害者も信者だった。

ラファティ兄弟には85年に有罪判決が下った。ダンは終身刑となり、現在も服役している。ロンは死刑判決を受けたが、78歳だった2019年に刑務所で自然死した。

ドラマは事件の顚末に加えて19世紀にさかのぼってモルモン教の成り立ちを描き、ブレンダの人生も掘り下げる。

番組のクリエーターで脚本も手掛けたダスティン・ランス・ブラックは本誌の取材に対し、「ブレンダの勇気をたたえたかった」と語った。

モルモン教の社会で、ブレンダはやや異色の存在だった。大学でジャーナリズムを学び、男に黙って従うことをよしとせず、教義で認められている一夫多妻に異を唱えた。そんな彼女は保守的な婚家ラファティ家で邪魔者と見なされ、やがて凶行の標的となる。

「モルモン教徒の女性が、とりわけあの時代に好奇心を持つのは勇気の要ることだっただろう」と、ブラックは言う。「遺族と親交を深め、ブレンダの日記や妹に宛てて書いた手紙を託されたことで、私は彼女をとても身近に感じ、刺激を受けるようになった」

ブレンダ役のデイジー・エドガージョーンズも、「彼女の勇敢な人柄がこの仕事を引き受ける決め手だった」と振り返る。「脚本を読んで、ブレンダの生きざまをたたえたいとランスに伝えた」

捜査と信仰心の狭間で

アンドリュー・ガーフィールド演じる刑事ジェブ・パイアは敬虔なモルモン教徒だが、凄惨な事件の捜査をきっかけに信仰に疑問を抱く。ラファティ家の闇に迫るにつれ、神とモルモン教の教義に対する信仰を揺さぶられるのだ。

原作はジョン・クラカワーのベストセラーノンフィクション『信仰が人を殺すとき』(邦訳・河出書房新社)。ジェブはドラマのために作られた架空のキャラクターだ。

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