最新記事

ベトナム

ベトナムと韓国の歴史問題「棚上げ」の思惑はなぜ一致したか?

LONG-BURIED WAR MEMORIES

2022年5月18日(水)16時53分
トラビス・ビンセント
ベトナム戦争

ベトナム戦争中、韓国はアメリカに次ぐ30万人規模の兵士を派遣した(1972年、南部の激戦地ニャチャン近郊) DAVID HUME KENNERLY/GETTY IMAGES

<ベトナム戦争中の韓国兵士の残虐行為を知らずに、若者は韓国ドラマの兵士に夢中。経済成長を優先し、歴史教育に関心のないベトナムと、歴史を掘り返されたくない韓国の「韓流ジレンマ」とは?>

ベトナム中部クアンガイ省出身のレ・ティ・タン・リは7年前から外国人観光客を相手に英語でツアーガイドをしている。地元周辺を案内すると、観光客はミーケー・ビーチの美しい砂浜と透き通った青い海に息をのむ。

今年3月下旬、リはソウルから来た年配の韓国人カップルを案内することになった。27歳のリは韓国ドラマの話ができると張り切っていたが、驚いたことに彼らが連れて行ってほしいと言ったのはクアンガイ省のビンホア村だった。

実はベトナム戦争中の1966年、この村で400人を超える住民が韓国軍兵士に虐殺される事件が起きていた。

それから数日間、リは事件についてインターネットで調べた。「私はここで生まれ育ったのに何も知らなかった。本当に情けない」友人たちにも何人か聞いてみたが、彼らも全く知らなかった。

リのように韓国のポップカルチャーにハマっている若者が、ベトナム戦争に韓国が関与したことを全くと言っていいほど知らないケースは多い。まして当時の韓国軍兵士による戦争犯罪についてはなおさらだ。

30人を超えるベトナムの大学生や若い社会人への取材から、彼らがベトナム戦争中の韓国人兵士による犯罪を知らないことが明らかになった。韓国兵によるレイプや殺害の舞台となった地で生まれ育ち、教育も受けた若者でさえ、この歴史の闇については不案内だった。

92年12月の韓国・ベトナム国交正常化から今年で30年。両国の外交関係は09年の「戦略的協力パートナーシップ」から「包括的戦略パートナーシップ」に格上げされる見込みだ。韓国のソフトパワーはベトナムの若者の心をつかんでいるが、高齢者世代は今でも戦時中に韓国兵が働いた残虐行為を忘れてはいない。

昨年7~9月、新型コロナウイルスの感染急拡大に伴い、南部ホーチミン(旧サイゴン)市は完全にロックダウン(都市封鎖)された。ベトナム軍の兵士たちも駆り出されて生活必需品の配給に協力。こうした兵士たちの姿をリ・ジョンヒョク大尉に重ねる声が多かった。

韓国ドラマ『愛の不時着』で韓国のトップスター、ヒョンビンが演じている北朝鮮のエリート将校だ。ドラマはベトナムで2020年にネット配信され、グーグルトレンドによれば、この年最もネット検索されたドラマのトップ10にランクインした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

加州高速鉄道計画、補助金なしで続行へ 政権への訴訟

ワールド

コソボ議会選、与党勝利 クルティ首相「迅速な新政権

ワールド

訂正中国軍、台湾周辺で「正義の使命」演習開始 30

ビジネス

中国、無人航空機を正式規制 改正法来年7月施行
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中