最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナ軍が使い始めた米M777榴弾砲の威力

How American M777 Howitzers Could Turn the Tide of Ukraine War

2022年5月11日(水)16時53分
ダーラー・ロシュ

カリフォルニアのマーチ空軍基地で空輸されるウクライナ向けのM777榴弾砲(4月22日) Austin Fraley/REUTERS

<旧ソ連製の榴弾砲に代わってウクライナ軍が使い始めた最新式のM777榴弾砲は、東部ドンバス地方でのロシアとの戦いも引っくり返す「ゲームチェンジャー」になるかもしれない>

アメリカがウクライナ軍に供与するM777榴弾砲が、その正確性と威力で、ロシア軍との戦いの流れを変える大きな切り札になる可能性が出てきた。

ウクライナ軍はすでにこの榴弾砲を、ロシア軍に対する砲撃に使用している。この野戦向け大砲は、同国軍がこれまで持っていた旧ソ連製の兵器と比べて、性能が格段に向上している。

アメリカはM777榴弾砲90門の供与を開始したほか、オーストラリアは6門、カナダは4門を供与した。現在アメリカ陸軍および海兵隊によって用いられているM777は牽引式の榴弾砲で、最大射程距離は15マイル(約24キロメートル)、操作には8〜10名の兵士を必要とする。

ウクライナの「キエフ・インディペンデント」紙の防衛担当記者、イリア・ポノマレンコは5月10日、こうツイートした。「M777はすでにドンバス地方に到着し、ロシアとの戦線で戦闘に用いられていることが確認できた!」

砲弾は精密誘導が可能

M777の口径は155ミリ。ポピュラー・メカニクス誌によると、これはNATO軍の標準的な規格だという。この点は、ウクライナが持つ旧ソ連製の口径122ミリおよび152ミリの榴弾砲からの性能向上と言える。

ウクライナが保有する「2S3アカーツィヤ152mm自走榴弾砲」は、最大射程が10.5マイル(約17キロ)しかない。同国の大砲は1991年の旧ソ連時代に製造されたものなので老朽化が著しい。

これに対し、M777榴弾砲は一般に精密誘導が可能な砲弾「エクスカリバー」を発射する。これは、衛星利用測位システム(GPS)を用いて標的を正確に狙えるもので、ウクライナはこの砲弾が供与されることになっている。4月25日付のAFPによると、カナダはすでにエクスカリバーを供与しているとのことだ。

アメリカ陸軍習得支援センター(USAASC)はエクスカリバーについて、「作戦司令官に対して、より強力な火力支援を提供し、致死性を向上させ、一般市民の巻き添え被害の可能性を減少させる」と説明している。

「エクスカリバーの砲弾は、妨害電波に耐える内蔵GPS受信機を搭載しており、慣性ナビゲーションシステムを改良している。これにより飛行中の正確な誘導が可能になり、射程距離に関係なく、ミス・ディスタンス(標的と実際の着弾点の間の距離)は2メートル以内に抑えられ、劇的に正確性が向上している」と、USAASCのウェブサイトでは解説されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権の性自認パスポート拒否、連邦控訴裁も認

ワールド

イラン、豪州との外交関係を格下げ 放火事件で対立

ワールド

韓国、日本車関税引き下げの影響を評価 米大統領令受

ワールド

OPEC産油量、8月はさらに増加=調査
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 4
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 5
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 6
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 7
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 9
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中