最新記事

ウクライナ

アメリカ軍より優れる──ウクライナ内製ソフトで砲撃20倍迅速に 

2022年5月26日(木)18時20分
青葉やまと

「アメリカ軍より優れる」 米国防関係者が語る

アメリカ国防契約管理局のテレンコ氏はツイートを通じ、GIS Artaアプリとスターリンク衛星通信の組み合わせが、「アメリカ軍の一般的な砲術指揮統制と比較して相当に優れたものをウクライナ軍にもたらした」との見解を示している。

このような演算システムはウクライナ独自というわけではなく、例えばアメリカ軍も砲兵射撃指揮統制システム(TACFIRE)や先進野戦砲兵戦術情報システム(AFATDS)などを導入している。しかし、砲撃までの時間には雲泥の差がある。

トレント・テレンコ氏は、「米軍は指令から発射まで、第二次大戦では5分、ベトナム戦争では15分、現在では1時間を要している」「いや、書き間違いではない」と述べている。

アメリカでは友軍に対する誤射防止などのため、上層部への確認手続きに時間を要するようになっているのだという。対するGIS Artaはこの常識を覆し、常に自軍の位置を追跡しておくことで、元々20分だった工程を最短30秒にまで短縮した。ウクライナのシステムは、「意思決定」と「引き金を引く」のあいだに存在した冗長な時間を、IT化で省いたといえそうだ。

クリミア危機が導入の契機に

GIS Artaの中核をなすコードは、兵力管理ソフトの製作を手掛けるウクライナのヤロスラフ・シャストゥーク氏が完成させた。氏は地理データを解析・活用する地理情報システム(GIS)の専門家だ。

米政治ブログ誌の『デイリー・コス』はGIS Artaについて、ウクライナが開発した「革新的」な砲術ソリューションだと評価している。「アメリカの技術ではない。イスライエルの技術でもない。自家製なのだ」と同誌は強調する。

GIS Artaの歴史は2014年ごろにまで遡る。ロシアによるクリミア侵攻を受け、ウクライナ軍の能力を強化する目的で導入された。

当初こそ砲撃計画システムの立ち位置に留まったGIS Artaだが、いまではより広範な戦術システムとしてウクライナの指揮官たちを補佐している。指揮官たちは軍司令部からシステムを参照して射撃命令を出すほか、兵站や通信のサポートなど幅広い業務をGIS Artaを活用して進めている。

開発に携わったエンジニアのひとりはタイムズ紙に対し、「レーダーと連携していれば、敵の所在を知るだけでなく、ミサイルの射出時にそれを検知し、着弾予想地点とそこに自軍の部隊があるか否かを自動的に検出します」と語る。「ロケットがまだ空中にある段階で、自軍に退避を促すことができるのです。」

西側による兵器支援がウクライナの防衛を支えているのはもちろんのこと、内製の優れたソフトウェアもその活用に一役買っているようだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

FRB、ディスインフレ確信も「予想より時間かかる」

ワールド

英総選挙、7月4日に実施 スナク首相が表明

ワールド

エジプト、ガザ交渉の仲介役を降りる可能性 CNN報

ワールド

米ミシガン州で鳥インフル感染者、乳牛との接触による
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結果を発表

  • 2

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決するとき

  • 3

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の大群、キャンパーが撮影した「トラウマ映像」にネット戦慄

  • 4

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 5

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 6

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    魔法の薬の「実験体」にされた子供たち...今も解決し…

  • 9

    「テヘランの虐殺者」ライシ大統領の死を祝い、命を…

  • 10

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中