最新記事

アメリカ外交

「プーチン権力の座」失言が露呈、バイデンの対ロ長期戦略の欠如

2022年3月29日(火)18時39分
アメリカのバイデン大統領

「ロシアのプーチン大統領は権力の座にとどまってはならない」――。26日のバイデン米大統領によるこの発言が大きな波紋を広げ、バイデン氏側近や西側諸国、そしてバイデン氏本人も釈明に追われる事態になっている。ホワイトハウスで28日撮影(2022年 ロイター/Kevin Lamarque)

ロシアプーチン大統領は権力の座にとどまってはならない」――。26日のバイデン米大統領によるこの発言が大きな波紋を広げ、バイデン氏側近や西側諸国、そしてバイデン氏本人も釈明に追われる事態になっている。誰もが米ロの対立激化を望んではいないからだ。

バイデン氏が衝撃的な発言をしたのは、ポーランドの首都ワルシャワにおける演説でだ。これにより、何人もの専門家がバイデン氏としては就任以来最も素晴らしい内容とみなした演説の骨子は注目されなくなり、ロシアに対する同盟国の結束に成功するはずだった同氏のワルシャワ訪問も、逆に同盟国を不安に陥れる結果になった。何よりも、冷戦期の敵だったロシアに米国がこの先対応するための長期的な戦略がどうなっているのかを巡り、さまざまな疑問が浮かび上がっている。

ホワイトハウス高官の1人はロイターに、「権力の座」のくだりはバイデン氏の演説草稿にはなかったと明かした。ではバイデン氏の「本音」が出たのかと聞かれたこの高官は直接答えず、大統領はプーチン氏を「殺人者」「戦争犯罪人」と呼ぶことに全くためらいを感じていないと指摘した。

バイデン氏はこれまでの政治家人生において、記者らとの自由な懇談の場や予定にないイベントなどで、幾つか目立つ「アドリブ失言」をしてきた経緯がある。最近の欧州訪問時には、ロシアがウクライナで化学兵器を使用すれば米国も「同様の」対応をするし、米軍が最前線に向かうと示唆。いずれも現在の米国の政策とは異なっている。

一方今回の発言は、事前に準備された草稿を聴衆に向けて読み上げる状況で飛び出した。ただバイデン氏のある側近は、多くの西側諸国や米有権者の間にはウクライナに侵攻したロシアに対する鬱屈した感情があり、同氏はそれを代弁したのだと擁護する。実際、この発言の直前の演説会場は、約1000人の聴衆がバイデン氏の言葉に共鳴し、拍手をしたり、旗を振り回したり、歌い出す人まで出るほど熱気に包まれていた。

また複数の米政府高官は、バイデン氏が発言の前日、ウクライナ難民やウクライナ政府関係者と会談したとも明かし、同氏の感情を揺さぶったのではないかと推測する。

それでもバイデン氏の発言は、ロシアなどが長年米国を非難してきた内容、つまり米国は世界中の紛争において帝国主義的な役割を果たそうとしている、という構図を裏書きし、予測不能性が高まるばかりのプーチン氏を何とか制御しようとしている西側の努力に水を差す形になっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

カナダ、10月雇用が予想外に増加 トランプ関税に苦

ワールド

米国務長官と会談の用意ある、核心的条件は放棄せず=

ワールド

ハンガリー首相、トランプ氏と「金融の盾」で合意 経

ワールド

ハマス、イスラエル軍兵士1人の遺体返還 2014年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 2
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 9
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 10
    「豊尻」施術を無資格で行っていた「お尻レディ」に1…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中