最新記事

ISS

「国際宇宙ステーションが米国や欧州に落下するかもしれない......」とロシアが牽制

2022年3月1日(火)17時40分
松岡由希子

ISSは、国際協調の象徴とされてきたが...... dima_zel-iStock

<ロシアの国営宇宙公社ロスコスモスのドミトリー・ロゴジン社長は、「軌道を外れて米国や欧州の領土に落下するISSを誰が守る」と牽制した......>

米国のバイデン政権は、2022年2月24日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて制裁を発表。ロシア国防省やロシア連邦軍らを対象に、ほぼすべての米国製品(物品・技術・ソフトウェア)および米国製のソフトウェア、技術、機器を用いて米国外で生産された物品の輸出を制限した。規制対象には、半導体やレーザー、センサー、アビオニクス(航空機に搭載される電子機器)、海事技術などが含まれる。

「軌道を外れて米国や欧州の領土に落下するISSを誰が守る」

この制裁に対し、ロシアの国営宇宙公社ロスコスモスのドミトリー・ロゴジン社長はツイッターで「ISS(国際宇宙ステーション)での協力関係を破棄したいのか」と反発し、「ロシアとの協力関係を断つならば、制御不能な状態で軌道を外れて米国や欧州の領土に落下するISSを誰が守るのだろう。あるいはインドや中国に落下するおそれもあるが、このような見通しをもって彼らを脅すのか。ISSはロシアの上空を飛行しない。すべてのリスクを負うのはあなた方だ」と牽制した。


ロゴジン社長は、ISSへの補給に使用されるロシアの無人貨物輸送宇宙船「プログレス補給船」のエンジンがISSの軌道修正やスペースデブリ(宇宙ゴミ)の接近回避を担っていることも強調する。

この比較的小さなスラスター(ロケットエンジン)はISSの加減速に用いられ、高度を上げ下げする効果があり、ISSの高度が低下しすぎた場合やスペースデブリを回避する場合に必要となる。

ISSは、国際協調の象徴とされてきた

ISSは、20年以上にわたり、NASA(アメリカ航空宇宙局)、ロスコスモス、ESA(欧州宇宙機関)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)によって共同で運用されている。この間、米国とロシアの関係は常にやや不安定であったものの、ISSは様々な科学的・技術的成果をもたらし、両国を含む国際協調の象徴とされてきた。

トランプ政権下で国家宇宙会議事務局長を務めた米ジョージワシントン大学宇宙政策研究所のスコット・ペース所長は、AP通信の取材で「ISSは政治的事象から大きく隔離されている」と指摘。「ロシアとの決別によってISSが危険にさらされるおそれは想定できる」としながらも、「より広範な軍事衝突がない限り、実際にそうなるとは思わない」との見方を示す。

現在、ISSには、NASAの宇宙飛行士4名、ロシア人宇宙飛行士2名、ESAの宇宙飛行士1名が滞在中だ。ISSは、南太平洋の「ポイント・ネモ」付近での落下が計画される2031年1月まで運用される見込みとなっている。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中