最新記事

スノーボード

平野歩夢の「超大技」はなぜ低得点に? 元五輪審判が語る不可解採点の「妥当性」

Making Sense of the Judging

2022年2月19日(土)18時52分
ジャスティン・ピーターズ(ジャーナリスト)
スノーボード平野歩夢選手

Mike Blake-REUTERS

<北京五輪スノーボード・ハーフパイプで平野歩夢の超人技「トリプルコーク1440」が予想を裏切る低得点になったのは、ジャッジの視点からは「妥当」だったのか?>

それは冬季五輪スノーボード男子ハーフパイプの歴史上、最も完璧に近い滑りが見る者を魅了した瞬間だった。

2月11日、北京冬季五輪決勝の2本目のラン(滑走)で、日本の平野歩夢がトリプルコーク1440というハーフパイプ種目で最高難度の大技の1つを決めた。縦方向に3回転するのに加えて、横方向にも4回転するという、まるで乾燥機の中でTシャツが高速回転するかのような超人技を、平野が五輪の舞台で初めて成功させたのだ。

この2本目のランを終えて得点を待つ間、会場でもテレビの前でも、平野がトップに躍り出て金メダルに王手をかけたと、ほとんど誰もがそう思った──。

だが、結果は違った。ハーフパイプの採点方法は、6人のジャッジ(審判員)がそれぞれ100点満点で得点をつけ、そのうち最高点と最低点を除く4人のスコアの平均点で競う。

そうして算出された平野の2本目は91.75点と、オーストラリアのスコッティ・ジェームズに次ぐ2位。ジェームズは2回目のランで92.50点をたたき出したが、トリプルコーク1440には挑戦さえしていない。それでも、平野の2本目よりジェームズに高得点をつけたジャッジは6人中、4人。1人だけではなく、4人もいたのだ。

「史上最高のランだったことは見れば分かる」

これは一体どういうことか。五輪のハーフパイプ種目には数値化された客観的な採点基準がなく、評価はジャッジの主観に基づいて行われる。つまり評価はジャッジ個人の「解釈」に委ねられている。

そしてなぜかこのとき、平野のランをどう見るか、ジャッジと「ジャッジ以外」の解釈はあまりにも違いすぎた。

全世界における「ジャッジ以外」の代弁者となったのは、米NBCテレビの実況中継で解説していた元米スノーボード選手のトッド・リチャーズだ。「いまジャッジたちは自分たちの信頼性をこっぱみじんにした」と、スノーボード界のレジェンドは生中継で激高した。

「これまでのハーフパイプ史上、最高のランだったことは見れば分かる。教えてくれ。あのランのどこから減点したのか。信じられない。はっきり言って、これは茶番だ!」

平野は結局、決勝3本目のランでさらにビッグなトリプルコーク1440を決めて金メダルを手にしたが、平野の2本目のジャッジには疑問符が残ったままだ。あのとき不可解な点数をつけたジャッジたちは何を考えていたのか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア黒海沿岸でウクライナのドローン攻撃、船舶2隻

ワールド

トランプ氏、グリーンランド特使にルイジアナ州知事を

ビジネス

午前の日経平均は大幅続伸、5万円回復 AI株高が押

ワールド

韓国大統領府、再び青瓦台に 週内に移転完了
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 8
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 9
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中