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アボリジニーの公式旗、ようやく豪政府が権利取得 権利ビジネスが問題に

2022年2月7日(月)11時50分
青葉やまと

東京五輪でオーストラリア女子サッカーチームはアボリジニー旗を掲げる Jack Gruber-USA TODAY Network

<旗に対して著作権が存在したことで、権利ビジネスが問題となっていた>

オーストラリア政府は1月24日、先住民族・アボリジニーの旗の著作権を2000万豪ドル(約16億円)で購入した。購入代金はおよそ50年前に旗をデザインしたアボリジニーのアーティストに支払われる。

これまではアーティストからライセンス供与を受けた企業が使用権を独占していたため、先住民であっても旗を許可なく使用できない問題があった。オーストラリア政府は使用権を解放し、今後は誰もが旗を利用できるようになる。

アボリジニーの旗は1970年、先住民のアーティストであるハロルド・トーマス氏によってデザインされた。旗は先住民の権利を訴える翌年のデモ行進のために制作されたが、その後もアボリジニーの団結を表すシンボルとして定着した。旗の上半分を占める黒はアボリジニーを、下半分を占める赤は大地を示す。中央の黄色の円は太陽を象徴している。

公式旗の権利を個人がもっていた

公の旗の著作権を個人が所有することは異例だ。世界各国の国旗は一般的に公有財産とみなされ、特定の人物または機関が著作権を有するものではない。

アボリジニーの旗は民族の象徴であり国旗ではないものの、オーストラリア国旗と並んで掲揚することができる公式の旗の一つだ。オーストラリアの国旗法によって1995年、同国の公式の旗の一つとして認められた。公式の旗は現在3つが存在し、オーストラリア国旗、アボリジニー民族旗、そしてアボリジニーとは独立したアイデンティティーを自負するトレス海峡諸島民の旗となっている。

このように公式に認められた民族旗だが、オーストラリア連邦裁判所は1997年、アボリジニー旗をトーマス氏個人の著作物と認める判決を下す。旗の著作権を保有していると確証したトーマス氏は2018年、メルボルンに位置するWMAクロージング社とライセンス契約を交わし、旗の使用権を供与した。

以来同社は、無許可での旗の使用について厳格に対応している。基本的に商用での無許可の利用は認められず、たとえアボリジニー自身が旗の意匠を用いる場合であっても、同社は権利侵害の通知を送っている。

一例としてオーストラリア土産のTシャツに旗の図案をプリントすることは許されず、使用をやめるか同社にロイヤリティを支払うかを迫られることになる。過去にはオーストラリアン・フットボール・リーグおよび豪ナショナル・ラグビーリーグの選手たちも、同様の理由でユニフォームの変更を余儀なくされた。

議会が問題視するも、合法との判断

豪ABCによると、トーマス氏は同社を含め3社ほどと契約を結んでいる。国が定める公式の旗の権利を特定の企業が有していることから、事態は2020年前後にしばしば問題視されてきた。

また、アボリジニーの民族旗は、白人による迫害への抵抗のシンボルでもある。ところが、旗がライセンスされた企業のいずれも、アボリジニーとは関係のない白人が経営する企業だ。こうした人種問題も非難を招くこととなった。

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