最新記事

ウクライナ危機

ウクライナ危機に新たな可能性、ロシア軍はベラルーシから侵攻する?

Belarus and the Ukraine Crisis

2022年1月24日(月)14時30分
ユージン・ショーソビスキー(ロシア・中東問題アナリスト)
プーチン、ルカシェンコ

プーチンもルカシェンコもウクライナ侵攻は高い代償を伴うと知っている MIKHAIL SVETLOV/GETTY IMAGES

<ロシア軍は既にベラルーシ入りしており、ウクライナ侵攻に向けた準備との見方が注目を集める。ベラルーシがロシアに手を貸し得る要因も、妨げる要因もあるが、地政学的にはロシアにとって合理的な選択だ>

欧米諸国が引き続きロシアのウクライナ侵攻に警戒心を募らせるなか、ロシア軍が取り得る新たな侵攻ルートが注目を集めている。北隣のベラルーシから入るルートだ。

ロシア軍は2月に予定されているベラルーシ軍との合同演習に備え、1月17日から現地入りを開始した。その動きをウクライナ侵攻に向けた準備と見て、欧米とウクライナの一部で懸念が高まっている。

ベラルーシはウクライナをめぐるロシアと欧米のにらみ合いで仲介役を果たしてきたが、事態の進展につれてその役割は微妙に変化している。

ベラルーシが今後、大方の予想を裏切るカードを切る可能性も否定できない。

純粋に地政学的な観点から言えば、ロシアにとってベラルーシからの侵攻は合理的な選択だ。

ベラルーシとウクライナの国境からウクライナの首都キエフまではわずか90キロほど。しかもロシアは合同演習に向け戦車から対空ミサイルまで兵器や装備を既にベラルーシに輸送している。

必要とあればベラルーシの協力を得て、ウクライナとの国境地帯を侵攻の拠点とする兵站上の準備も整っている。

一方で、ベラルーシがロシア軍のウクライナ侵攻に手を貸すことを妨げる要因も多くある。

まずウクライナとの関係だ。ベラルーシは伝統的にウクライナと良好な関係を保ってきた。

ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領はそれを強みにウクライナとロシアの仲介役を買って出た。

2014年にウクライナ東部で紛争が勃発すると、ベラルーシの首都ミンスクはロシアとウクライナ・欧米陣営との和平交渉の主要な舞台となり、その名も「ミンスク合意」が締結された(有名無実の和平合意にすぎないが)。

ここ何カ月かベラルーシとウクライナの関係はゴタゴタ続きだが、ベラルーシがロシア軍の侵攻に手を貸せば、ウクライナとの関係修復の望みは完全に断たれるだろう。

周辺国の動きを口実に

もう1つの要因は欧米の反応だ。

ルカシェンコ政権は、大統領選の不正は疑われるわ、反政府デモを武力で鎮圧するわ、EUに圧力をかけるために難民を大量にポーランドに送り込むわと問題だらけで、既にアメリカとEUに厳しい制裁を科されている。

ロシアの侵攻を助ければ、さらなる制裁を科されるばかりか、ポーランドやバルト諸国など周辺地域でNATOが軍事的プレゼンスを高めるなど、望ましくない形で欧米に圧力をかけられる羽目になる。

だがそれ以上に、ロシアに手を貸すに当たり、ルカシェンコが最も恐れるのは国民の反発だろう。

2020年に起きた反政府デモは何とか抑え込んだが、ロシアのウクライナ侵攻を助けたとなれば、またもや大規模デモが広がりかねない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中