最新記事

世界経済

スティグリッツが今年の世界経済に見る2つの暗雲:トランプと中国

NO WIGGLE ROOM AHEAD

2022年1月3日(月)18時41分
ジョセフ・スティグリッツ (コロンビア大学教授)

最近の供給不足は価格に反映されているが、供給不足による価格の上昇は、余剰によ る下落に比べて不均衡に大きくなりがちだ。従ってインフレが起こりやすく、誰が権力を握っても、その責任を問われるだろう。

問題は、超過需要が原因のインフレを抑制する方法は分かっているのに、現状には当てはまらないことだ。ここで金利を上げれば、インフレを抑制する以上に失業率が上昇する。

さらに、世界各地でパンデミックの経済的影響を緩和するための財政措置が行われたが、その効果は薄れており、 成長が鈍化しかねない。これについては多くの国の復興計画に左右される。

例えば、ジョー・バイデン米大統領が掲げるBBB(ビ ルド・バック・ベター=より良い再建)に盛り込まれている供給側の対策は、中期的には(短期的にも)成長の持続を促す可能性が高い。保育施設が充実すれば、より多くの女性が労働力に参加できるようになる。パンデミック対策の強化は、就労や学校再開への不安を軽減する。より良いインフラ投資は、モノやヒトの移動コストを削減する。

インフレ圧力緩和のカギ

いずれにせよ、ワクチンの供給量を増やし、貧困層への平等な供給のために世界が協調して努力すれば、金利引き上げよりもはるかにインフレ圧力を緩和できるだろう。

しかし、残念ながら2つの暗雲が立ち込めている。

1つは政治の暗雲だ。米共和党はドナルド・トランプ前大統領に魂を売り、理性も民主主義へのコミットメントも 放棄した。真実、予算、説明 責任、多元主義への敬意を捨てた共和党は、アメリカにと っても世界の他の地域にとっても、明らかな危険を体現している。賢明な投資家は、こうした政治力学がもたらす世界経済の不確実性を考慮する。

ただし、大きなリスクが迫っていることを、手遅れになるまで市場が認識しないことはよくある。 2008年もそうだっ た。 2022年はどうなるだろうか。

2008年に始まった大不況から10年以上が経過し、世界の総需要が再び堅調になったことは喜んでいい。今回の景気拡大が、気候変動時代に向けた経済の改良、長年のインフラの欠陥の改善、人材や技術への投資など、社会の真のニーズに対応していけるなら望ましいのだが。

もう1つは地政学的な暗雲だ。米中の対立は激化し、他の国々も巻き添えを食らっている。それでも、ほんの1年前のトランプ時代とは明らかに異なる。当時は、中国の利益になることは全てアメリカの犠牲の上に成り立っていると見なされ、人権や民主主義への関心も低かった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中