「すぐ崩壊する」の観測を覆した金正恩の10周年、侮れない実力と「らしさ」

KIM JONG UN’S DECADE

2022年1月27日(木)17時24分
レイチェル・ミニョン・リー(米分析サイト「38ノース」フェロー)

指導者としての正恩に特徴的なのは、徹底した実利主義と行動の透明性だ。仰々しいイデオロギー的な論調は今も変わらないが、彼は言葉よりも行動と結果を重視している。

正恩は「我々式の経済管理方法」と称するものを打ち出し、農業、工業および金融部門の全面的な改革を進めている。彼の考える経済改革の中心には、各「労働単位」に計画から生産、資源の管理、収益までの全工程にわたって、これまで以上の裁量権を与えるという方針がある。

19年4月には「社会主義企業責任管理制」が憲法に明記された。

また彼が繰り返し掲げてきた目標に「革新」がある。就任当初、正恩が視察したモランボン楽団の公演にはディズニーのキャラクターが出演し、世界を驚かせたことがある。この公演は西側の文化を大々的に支持する内容だったというだけでなく、最高指導者がそのパフォーマンスに支持を表明したという点で、さらに異例な出来事だった。

父や祖父とは異なる正恩のもう1つの特徴は、至らない部分を堂々と認めて謝罪し、問題を隠蔽せずに正面から向き合って対処していることだ。彼が現場視察の際に当局者たちを批判し、問題や失敗を公に認めることは、もはや珍しくない。

例えば20年10月、正恩は軍事パレードでの演説で、国民の期待に十分に応えることができていないと謝罪した。第8回朝鮮労働党大会の開会挨拶では、経済5カ年計画で掲げた目標が「ほぼ全ての部門で未達」だったことを認めている。

強権支配の手綱は緩むか

ここまでは金正恩の歴史と統治スタイルについてのおさらいだが、問題は彼が今後どうするかだ。

一番の懸念は、彼がいかにして経済の舵取りを行い、経済改革を実行していくかだ。正恩は全国ロックダウンを利用して「自力更生」をできる限り推し進め、中国からの輸入を減らし、科学技術を支援することで国内の生産・製造体制を強化したいように見える。

彼はまた、現在の鎖国状態を党と国家の支配力を最大化させる好機と見なし、その間に経済の根本的な立て直しに着手したいようだ。例えば経済の「再調整と発展」や地方経済の発展、「部門主義」や「自分たちの労働単位を特別視する慣行」を排除する取り組みなどがある。

過去1年間の北朝鮮については、経済政策において政府よりも党主導の路線が前面に出ているとの観測があり、北朝鮮の改革は減速または後退している可能性があるとの分析も出ている。北朝鮮では従来から、政府が改革の担い手で、党は保守派の牙城と目されているから、こうした分析が浮上するのは当然だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド、米通商代表と16日にニューデリーで貿易交渉

ビジネス

コアウィーブ、売れ残りクラウド容量をエヌビディアが

ワールド

米軍、ベネズエラからの麻薬密売船攻撃 3人殺害=ト

ビジネス

米アルファベット、時価総額が初の3兆ドル突破 AI
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中