最新記事

ペット

ロックダウン生活支えたペットたち、いまや飼育放棄続々 英・独

2021年12月10日(金)20時30分
青葉やまと

ペットシェルターの収容能力は限界に近い...... Valeriy Volkonskiy-iStock

<厳格なロックダウンを実施した欧州で、ペットの飼育急増と放棄が問題に。イギリスでは1年半で犬の飼育が150万頭増えたとの推算も>

イギリスで大規模なロックダウン(都市封鎖)が起こると、人々は新たなパートナーを家庭に迎え、気分が落ち込みがちなステイホームの時間を明るく過ごそうと考えた。ペットブームの到来だ。

ある動物保護団体は過去18ヶ月でイギリスにおいて、約150万頭の犬が新たに飼われたとの見積りを示している。供給が追いつかず、海外から続々と仔犬が輸入されるほどの過熱をみせた。猫の人気も伸びた。英愛護団体が今年10月に実施した調査によると、猫を飼育する人の数はパンデミックを機に7%ほど増えたという。

困難な時代、ペットを迎えることで明るく過ごそうという試みは前向きではある。しかし、なかには将来を見据えず、その場限りの判断で購入した人々も多かったようだ。わずか数ヶ月後、ペット熱は一気に冷え込む。

ガーディアン紙によると、英動物虐待防止協会には引き受けの依頼が殺到し、団体のデスクに据えられた電話は数分おきに鳴りつづけたという。状況が最も深刻だった昨年末には、1日あたり70匹ほどの動物を連日引き取っていた。

イギリス最大の動物保護機関であるドッグ・トラストの犬舎はすでに満杯となり、登録済の里親たちもこれ以上は引き受けられない状況だ。だが、「おそらくピークはこれからでしょう」と同施設の専門家はみる。

イギリスだけでなく、同じ欧州のドイツでも似たような傾向が報告されている。国営放送のドイチェ・ヴェレによると、2019年から2020年までに飼い猫の数は100万匹増加した。犬も60万匹増となっている。オークションサイトのeBayでは違法な仔犬の取引が後を絶たなかった。

複数の保護団体が衝動的にペットを飼わないよう呼びかけたが、聞き耳を立てた人々は少なかったようだ。数ヶ月経ったいま、飼育に手を焼く人が目立ちはじめ、放棄するケースが相次いでいる。西部のある街では65歳の女性が、高さ2メートルのフェンス越しに保護団体の敷地内へと犬を投げ入れ、衝撃的なニュースとして報じられた。

パンデミックの特需が招いた、ペットのしつけ不足

多くのペットが手放されている背景には、パンデミック固有の事情がある。こと、本来正しくしつければ良好な関係を育むことができるはずの犬について、問題行動に手を焼く例が目立っている。

ガーディアン紙が指摘するのは、繁殖・流通上のストレス問題だ。前述のように需要に対応するため、多くの仔犬が海外から急きょ輸入された。イギリスの動物虐待防止協会の職員は同紙に対し、「こうした仔犬たちは、動物愛護よりも量産に重きを置いた施設と環境で繁殖されています」と説明する。

幼くして母親から引き離され、さらに長い時間をかけてイギリスまで輸送されることでストレスが蓄積し、将来的に問題行動を起こす可能性が増すのだという。

また、ロックダウン中に適度な外出ができなかったことから、犬同士で社会性を育むことができなかったことも災いした。仔犬の時期にほかの動物や大きな音に慣れる機会がなかったことも、過剰反応を示す傾向を招いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中