最新記事

米ロ関係

極超音速ミサイルでロシアはアメリカを抜いたのか、それともウクライナ侵攻前のブラフなのか?

Has Russia Beaten the U.S. in the Hypersonic Missiles Race?

2021年12月6日(月)18時45分
ブレンダン・コール

この数カ月の間、国営メディアはツィルコンの発射成功について派手に報じてきた。もっとも専門家の間からは、ロシアの言う通り射程が1000キロもあるのか疑問視する声も聞かれる。

推進力をスクラムジェットから得る純粋な極超音速ミサイルとは異なり、ツィルコンは既存の技術の組み合わせで作られている。

ツィルコンは固形燃料ブースターの力で大気圏外まで飛び、そこから準弾道の「スキップ・グライド」軌道を通って標的に近付く。弾頭は取り外し可能だ。

「(ツィルコンは)巡航ミサイルと弾道ミサイルのハイブリッドだろうと思われる」と、コンサルタント会社イースタン・アドバイザリー・グループのリチャード・コノリーは言う。「技術レベルの高いやり方ではないが、革新的でもあるし、同じ目的地にたどり着くことは可能だ」

「アメリカは純粋な極超音速ジェットの実験をたくさんやり、ありとあらゆる障害にぶつかってきた」とコノリーは本誌に語った。

「ロシアは目的地への近道をして『スクラムジェットだけを使った純粋な(極超音速兵器の)システムで中国やアメリカと競争しようとするのはやめ、その代わりハイブリッド技術を使おう』と言ったに過ぎない」

アメリカの少し先を行っているのは確か

「ツィルコンがアメリカにできないようなことをやっていることを示す証拠は見当たらない。(ロシアは)単に、別の(開発)ルートを選んだというだけだ」。そう言いつつもコノリーは、ミサイル開発でロシアがアメリカより「少し前を行った」とも考えている。「だが、ロシア側が世間に思わせたいほどに差が開いているわけではない」

失敗続きの計画

ロシアはまた今年10月、バレンツ海でセベロドビンスク原子力潜水艦からのミサイル発射実験に初めて成功したと発表した。これが本当であれば、潜水艦は水中の特定不可能な場所から長距離高速ミサイルを発射できるため、軍事バランスが変わる可能性がある。

しかし、この実験は失敗したようだとコノリーは言う。彼はイギリスのシンクタンク王立国際問題研究所によるロシアの軍事力の評価の共同執筆者でもある。

だがロシア国防省は11月にさらなる計画を示唆し、885型(ヤーセン型) 原子力潜水艦ペルミ2024からのジルコンの試験発射を再開すると発表。今回のミサイルは「設計のわずかな変更により、以前とは異なるものだ」と、タス通信は伝えた。

開発中のアバンガルド(極超音速滑空体)ミサイルシステム、大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」と、核搭載可能な空中発射弾道ミサイル「キンザール」の実験も進んでいる。キンザールはイスカンデル地上発射型単距離弾道ミサイルの改良型でミグ31K迎撃戦闘機から発射される。

しかし、2018年にプーチンが言及したいくつかの軍事プログラムは、それぞれ障害に直面している。NATOのコードネームで「SSC-X-9スカイフォール」と呼ばれる原子力巡航ミサイル「ブレベストニク」は、2019年8月にロシアの北極海で秘密のエンジンテスト中に墜落したと考えられている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=まちまち、好業績に期待 利回り上昇は

ビジネス

フォード、第2四半期利益が予想上回る ハイブリッド

ビジネス

NY外為市場=ドル一時155円台前半、介入の兆候を

ワールド

英独首脳、自走砲の共同開発で合意 ウクライナ支援に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中